今回、皆さんと考えたいのは「寂しい人」と「メンタル」の関係についてです。
【概要】
「なんとなく寂しい…」という気持ちは誰にでも湧いてくるもの。しかし、日常的に強い孤独感を抱えていると、気分が落ち込んだり、ストレスを抱え込んだりしてしまいがちです。海外の研究では、「人とのつながり不足がメンタルや身体の健康にリスクをもたらす」と報告されています。一方で、日本の研究でも、同様の影響が示唆されるデータが蓄積されつつあります。「家事や子ども対応に忙しいのに、なぜか心は寂しい」という感覚がある方もいるかもしれません。今回は、そんな「寂しい人」と「メンタル」の関係を科学的な視点で捉えながら、ポジティブに気持ちを転換してストレスを減らすためのヒントを探してみましょう。
「寂しい人」とメンタルに起こる変化
孤独感や寂しさを長期間抱える人は、下記のようなメンタル面・身体面での影響を受ける可能性があります。
- ストレスホルモンの増加: コルチゾールなどのホルモンが分泌されやすくなり、慢性的な疲労感につながる
- うつ症状や不安症状: 自己否定感や悲観的思考が強まりやすい
- 睡眠の質の低下: 孤独感があると夜中に考え事が増え、眠りが浅くなる場合が多い
- 社会的スキルの低下: 人との会話が減ることでコミュニケーション能力が落ち、さらに孤立感が増す可能性
こうした悪循環は放置すると大きなストレスにつながり、仕事や家庭生活にも影響を及ぼします。しかし逆に言えば、「寂しさを感じる自分」を受け止め、上手にケアしていくことで、メンタル面を健やかに保つことが可能になるのです。
海外研究
Cacioppo & Hawkley(2009年)
アメリカの研究者John CacioppoとLouise Hawkleyは、孤独感(loneliness)が心身に与える影響について長年研究を進めてきました。彼らの論文によると、孤独感が強い人ほど血圧が平均して約14mmHg高く、うつ症状や不安症状のリスクが高まるというデータが示されています。特に、社会的交流が少ない状態が続くと、自己肯定感が下がりストレス反応を増幅させるメカニズムが働くそうです。
出典:Cacioppo, J. T. & Hawkley, L. C. (2009). Perceived Social Isolation and Cognition. Trends in Cognitive Sciences, 13(10), 447–454. https://doi.org/10.1016/j.tics.2009.06.005
Holt-Lunstadらの分析(2015年)
Holt-Lunstadらが実施した大規模分析(2015年)では、孤独感や社会的孤立が健康に与える影響は肥満や喫煙と同程度かそれ以上と指摘。約300万人を対象にした調査の結果から、強い孤独感を抱える人は死亡リスクが約26%上昇するという衝撃的な報告がなされています。つまり、メンタル面だけでなく身体的健康にも大きく影響するというわけです。
出典:Holt-Lunstad, J., Smith, T. B., Baker, M., Harris, T., & Stephenson, D. (2015). Loneliness and social isolation as risk factors for mortality: A meta-analytic review. Perspectives on Psychological Science, 10(2), 227–237. https://doi.org/10.1177/1745691614568352
日本のデータ
厚生労働省:孤独・孤立に関する調査
厚生労働省が2020年に発表したデータによると、自分を「孤独だ」「寂しい」と感じる頻度が高い人ほど、ストレス関連の相談(メンタルヘルス相談)に行く割合が約1.7倍高いという傾向が確認されています。特に働き盛りの30〜40代で「家庭も職場もあるのに、なぜか寂しい」と訴えるケースが増加傾向とのこと。
出典:厚生労働省. (2020). 孤独・孤立に関する実態調査. https://www.mhlw.go.jp
東京大学:孤独感と自己肯定感の関係
東京大学の研究チームが大学生を対象にアンケート調査を行ったところ、孤独感の強いグループは自己肯定感(Rosenberg Self-Esteem Scale)で平均して約10ポイント低い値が示されたと報告しています。研究者は、「孤独感が思考のネガティブスパイラルを引き起こし、さらに社会的交流を避けることで悪循環になる」と分析。
出典:東京大学 研究成果 https://www.u-tokyo.ac.jp
寂しさを活かしつつストレスを減らすための具体策
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一人の時間をリフレーミングする 
 寂しい気持ちをただ否定するのではなく、「自分と向き合う大切な時間」として捉え直す工夫が有効です。たとえば日記をつけたり、趣味に没頭する時間を確保すると、一人の時間が充実感に変わりやすいです。
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無理のない社交のきっかけを作る 
 強引に大勢のパーティーに参加するよりも、少人数の集まりやオンラインコミュニティなど、自分に合った形での社交を試みるとスムーズです。Holt-Lunstadらの研究でも、社会的なつながりを強化することが孤独感の改善に寄与すると示されているため、小さな一歩が大事です。
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家庭や職場で“頼るスキル”を磨く 
 「孤独感があるのに誰にも頼らない」というパターンに陥りがちな方は、思い切ってちょっとしたことを頼む練習をしてみましょう。例えば職場で書類整理を手伝ってもらう、育児の一部をパートナーにお願いするなど。周りと助け合う関係ができると寂しさは軽減し、ストレスも下がると厚生労働省のデータでも示唆されています。
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専門家に相談する 
 孤独感やストレスが深刻な場合は、カウンセラーや産業医など専門家の力を借りる選択も大切です。東京大学の調査でも、一度専門家に相談してから自己肯定感が回復したという事例が複数報告されており、早期のケアが回復に効果的といわれます。
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小さな成功体験を積む 
 寂しさから来る自己肯定感の低下を防ぐには、できる範囲の目標を設定し、達成感を得ることが手っ取り早いといわれています。趣味の目標、育児や家事のタスクをクリアする目標など、小さな成功が積み重なると「自分はできる」という感覚が高まり、気持ちが前向きになります。
まとめ
'''寂しさを感じやすい人は、メンタルに負荷がかかりやすく、ストレスリスクが高まると多くの研究が示唆しています。'''Cacioppo & Hawkley(2009年)は孤独感が高い人ほど血圧が14mmHg高く、Holt-Lunstadら(2015年)のメタ分析では死亡リスクが約26%上昇するという深刻なデータが示されました。日本でも厚生労働省(2020年)の調査で孤独感を抱える人はメンタルヘルス相談に行く割合が1.7倍という結果があり、東京大学の調査では自己肯定感が10ポイント低いなど、数値的にもはっきり表れています。
ただし、寂しさそのものは「悪」ではありません。むしろ自分の本音に気づくきっかけとして捉えれば、自己理解や周囲とのつながりを再構築するチャンスになるかもしれません。育児をしているときも、「子どもがいるのに何で寂しいんだろう」と感じる瞬間がある方は多いと思います。けれど、その寂しさに気づくことが、大人のサポートや友人との交流を増やすきっかけになるなら、結果的に家族みんなにとってプラスに働くかもしれません。
大切なのは、【“寂しい”という感情を無視せず、適切なサポートや対策をとる】こと。無理に大勢の場所へ行かなくても、小規模なコミュニティやオンラインのつながりを活用するだけで孤独感が和らぐデータも出ていますし、頼れる家族や同僚がいるなら、素直に手を借りることで心がほっとする場合も多いです。目標を立てて小さな成功体験を積むのも、自己肯定感の回復には効果的です。
結局、寂しさは人間が持つ大切なサインだと考えられます。「ちょっと疲れてるよ」「誰かと繋がりたいよ」という心の声を、うまく聞き取ってあげることが、ストレスを軽減し、日々の暮らしを前向きに変えていく第一歩です。あなたが今感じているその寂しさも、明日をより良くするきっかけにできるかもしれません。
