今回、皆さんと考えたいのは「眠気」と「ストレス」の関係についてです。
【概要】
この記事では、ストレスによって生じる眠気のメカニズムや、海外・日本の研究データを踏まえた具体的な数値を紹介します。また、ストレスがなぜ睡眠や覚醒状態に影響を与えるのかを解説し、最後に対策法をまとめます。
-
眠気とストレスとは? ストレスは、身体的・精神的な負荷によって生じる緊張状態や不安、イライラなどを指します。一方、眠気とは睡眠不足や体内リズムの乱れ、あるいは心理的負荷によって引き起こされる生理的な兆候です。日常生活のなかでストレスを感じる機会が増えると、イライラだけでなく、睡眠の質や量が乱れやすくなります。
ここでポイントとなるのは、ストレスが溜まっている状態は必ずしも「眠れなくなる(不眠)」だけでなく、「過度の眠気(過眠)」にもつながり得ることです。特に慢性的なストレスを抱えた場合、
'''ストレスによって心身のバランスが乱れると、うつ状態や自律神経の不調を経由して過度の眠気を感じるケースがある'''
ことが知られています。これは仕事や学業などのパフォーマンスを低下させるだけでなく、事故のリスクを高める要因にもなり得るため、注意が必要です。
- 海外の研究 ストレスと眠気(あるいは睡眠)との関係に関して、海外では多くの調査や研究が行われてきました。その中でも代表的なものとして、アメリカ心理学会(APA)が毎年実施している「Stress in America」という大規模調査があります。最新の2022年版では、ストレスが健康に与える影響について以下のようなデータが示されています。
・アメリカ成人の76%が、ストレスによって何らかの健康問題を直近1か月で経験した
・そのうち35%は、疲労感やエネルギーの低下を感じている
この結果は、ストレスが肉体的疲労だけでなく眠気や倦怠感として具体的に表れやすいことを示唆しています。特に、疲労感・エネルギーの低下という自覚症状は日中の眠気にも密接に関連するとされています。
引用元:
Stress in America 2022(American Psychological Association)
また、睡眠に特化した情報を提供しているアメリカの非営利団体Sleep Foundationでは、ストレスと睡眠の相互関係に関するレビューを定期的に公表しています。Sleep Foundationのウェブサイト上では、
'''ストレスを強く感じる時期に不安感が高まることで入眠困難や睡眠の維持が難しくなり、それが日中の強い眠気につながる傾向がある'''
と指摘されています。ストレスがかかると交感神経が優位になり、身体が「休息」よりも「警戒」モードになりやすいため、睡眠障害や睡眠不足を引き起こし、結果的に翌日の日中にも強い眠気をもたらすわけです。
引用元:
Stress and Sleep(Sleep Foundation)
- 日本の研究 海外だけでなく、日本においてもストレスと眠気の関連性を示すデータが存在します。厚生労働省が実施する「労働安全衛生調査」(令和2年)によれば、職場環境などに関する質問項目で
'''約58%の労働者が「仕事や職場で強い不安・ストレスを感じる」'''
と回答しており、これは過半数以上の人がストレス下で働いていることを示します。
この調査自体はストレスに特化したものではありますが、同時に日本国内におけるストレスの高まりや働き方の問題が、睡眠の質に影響を及ぼしている可能性を示唆しています。実際に精神科外来や産業医の現場でも、長時間労働や人間関係のトラブルなどのストレスが原因となって睡眠障害を発症する例が増えてきていると報告されています。睡眠障害の一部には過眠傾向も含まれ、日中の眠気が強くて仕事に集中できない、というケースが年々増加しているとの指摘もあります。
- なぜストレスが眠気を引き起こすのか?
ストレスによって引き起こされる眠気には、主に以下のメカニズムが考えられています。
・'''自律神経バランスの乱れ'''
ストレスがかかると交感神経が過度に刺激される一方で、副交感神経の働きが抑制されがちになります。夜間のリラックスが不足して睡眠の質が下がり、翌日に「寝不足」「疲労感」として蓄積し、日中の過度な眠気につながるケースです。
・'''ホルモン分泌の変化'''
ストレスを感じると、コルチゾールなどのストレスホルモンが分泌されます。本来、コルチゾールは朝に上昇して目覚めをサポートし、夜に低下することで睡眠を促す役割を持ちます。しかし、慢性的ストレスにより終日高値が続くと、体内時計が乱れてしまい、「夜しっかり眠れないのに、昼間に眠気が襲う」という状況を招きます。
・'''精神的負担と疲労の蓄積'''
ストレス環境下では、脳が常に不安や緊張を処理しようとしてエネルギーを使い続けます。長引くと心身の疲労が深刻化し、仕事や学業に対してやる気が出ない、集中力が落ちるなどの症状とともに、極度の眠気を感じるようになる場合があります。
- ストレスと眠気への対策
ストレスを緩和しつつ、眠気のコントロールを行うためには複数の方法があります。代表的なものを挙げてみましょう。
・'''睡眠リズムの確立'''
毎日同じ時刻に就寝し、同じ時刻に起床するよう心がけることで、体内時計を整えることができます。寝る前のスマートフォン使用や強い光の刺激を避け、徐々に副交感神経が優位になる環境を作ることが重要です。
・'''適度な運動'''
ウォーキングや軽いジョギングといった適度な有酸素運動は、ストレスホルモンを穏やかに減少させ、夜間の良質な睡眠を誘導するとされています。運動習慣を身につけることで、日中の眠気も軽減しやすくなります。
・'''ストレス解消の手段を増やす'''
カウンセリングや友人とのコミュニケーション、趣味の時間の確保など、ストレスをうまく発散できる手段をいくつか持つと良いでしょう。ストレスを溜め込みにくい環境作りが、結果として睡眠の質の向上につながります。
・'''リラクゼーション法の活用'''
深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラクゼーション法は、自律神経のバランス回復に効果があります。ストレスで交感神経が優位になり続けるのを抑えることができれば、夜間の入眠もスムーズになり、翌日の眠気が軽減されると期待できます。
- まとめ
ストレスは私たちの心身に多大な影響を及ぼし、眠りにくさだけでなく日中の強い眠気として現れることもあります。海外の大規模調査(APA「Stress in America」)や日本の労働安全衛生調査などのデータからも、ストレスが私たちの眠りに影響することが示されています。特に過度のストレス下では、自律神経やホルモン分泌が乱れ、慢性的な疲労感とともに強い眠気を感じるリスクが高まります。こうした状態が長引くと、仕事や生活の質の低下だけでなく、さらなるメンタルヘルスの悪化にもつながりかねません。
だからこそ、
'''日常的にストレスを緩和し、睡眠リズムを整えることが、日中のパフォーマンスを維持するうえで非常に重要'''
です。生活習慣を見直し、適度な運動やリラクゼーションを取り入れることで、ストレスを上手にコントロールしながら眠気の原因を根本から改善していくことが期待できます。もしストレスや眠気が改善しないようなら、専門家に相談することも大切な選択肢の一つです。心身の健康を守るためにも、自分に合った対策を継続的に行っていきましょう。