メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

2度の「育休」と「介護休職」を乗り越えた「鋼メンタル」の持ち主。ポジティブな思考や言葉をこよなく愛する複数企業の役員・心理カウンセラー。

「デジタルデトックス」がメンタルに良いって本当?

今回、皆さんと考えたいのは「デジタルデトックス」と「メンタル」の関係についてです。

はじめに

スマートフォンやパソコン、SNSなど、私たちは日常的に多くのデジタル端末やオンラインサービスに囲まれています。その便利さはもちろん大きなメリットですが、一方でデジタル機器への依存や情報過多によるストレスが社会問題化しています。こうした背景から「デジタルデトックス」が注目され、一定期間あるいは一日の中でデジタル機器との距離を置くことで、心身をリフレッシュしようという動きが広がっています。

近年の研究によると、デジタルデトックスを実践する人々がメンタル面でプラスの効果を感じ、ストレスや不安が軽減されるケースが多数報告されています。本記事では、海外・日本の研究論文を参考に、デジタルデトックスとメンタルの関係、そして実践のコツを紹介します。


 

デジタルデトックスが注目される背景

  1. SNS依存の増加

    • SNSによる情報のやり取りやコミュニケーションが増えたことで、四六時中スマホを手放せない状況が一般化。
    • 承認欲求や比較によるストレス、ネット炎上への過度な反応など、心理的負担の増加。
  2. 仕事とプライベートの境界喪失

    • リモートワークや在宅勤務が進む一方で、仕事の連絡が24時間オンラインで来る状況となり、休息時間にもメールやチャットの通知が気になる。
    • 結果として常に脳が興奮状態になりやすく、疲労感や不安が蓄積しやすい。
  3. 情報過多・マルチタスクの増加

    • スマホで同時に複数のアプリやウェブページを見ながら作業する「マルチタスク」が当たり前になり、集中力が散漫に。
    • 情報が絶えず流れ込む状況により、脳や心がリラックスする時間を確保しづらい。

こうした事情が重なり、デジタル機器から一定時間離れる「デジタルデトックス」がメンタル安定につながる手段として注目を浴びています。


 

海外の研究例

1. イギリスのデジタルデトックス実験(Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 2018)

イギリスの大学で行われた実験(Smith et al., 2018)では、SNSを頻繁に使う学生50名を対象に、週末(2日間)だけスマートフォンSNSを利用しないよう指示。'''その結果、デトックス実施後にストレス自己評価が平均12%低下し、不安感(STAIスコア)も約10%減少'''したとの報告です。被験者の多くが「デジタルから離れた時間が思ったより心地よかった」と回答し、学習意欲や気分の回復を感じたと述べています。
https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/cyber.2018.0027

2. アメリカでのSNS利用制限試験(Journal of Social and Clinical Psychology, 2018)

アメリカの調査(Hunt et al., 2018)では、大学生約140名を対象にSNSFacebook, Instagram, Snapchat)の1日利用時間を10分ずつ(合計30分以内)に制限するグループと、制限しないグループに分けて3週間追跡。'''制限グループでは孤独感やうつ症状が平均15~20%低下'''したとされ、研究者は「適度な制限がメンタルに良い影響を与える」と結論づけています。
https://psycnet.apa.org/record/2018-53981-002


 

日本の研究例

1. 大学生のSNSデトックス調査(日本心理学会, 2020)

日本心理学会で発表された研究(Tanaka et al., 2020)によると、大学生100名に対し「就寝前2時間はスマホSNS利用を禁止」する指示を2週間行ったところ、'''睡眠の質が約12%改善し、ストレス自己評価スコアも10%低下'''したとの結果が得られました。被験者は最初は落ち着かないと感じたが、徐々に慣れると「リラックスして寝られるようになった」と回答しています。

2. 企業の「スマホオフデー」導入事例(経済産業省, 2019)

経済産業省が紹介した企業事例(2019年)では、社内で「スマホオフデー」を週1回導入し、社員に昼休みから就業後1時間までスマホをロッカーに保管してもらう制度を試験的に実施。'''1か月後にストレスチェックを行ったところ、社員の約65%が「スマホの通知を気にしなくて済むのが快適」と回答し、ストレススコアが平均7%低下'''したと報告されています。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei.html


 

デジタルデトックスがメンタルに与える主な効果

  1. ストレスホルモンの抑制

  2. 集中力・生産性の向上

    • マルチタスクや絶え間ない通知から解放され、シングルタスクに集中できるため、業務や学習効率がアップ。
  3. 睡眠の質の改善

    • 寝る前のブルーライトや情報刺激を減らすことで、脳が興奮しにくく入眠しやすくなる。
  4. 自己コントロール感の獲得

    • デジタル機器に振り回されない生活を実感することで、精神的に自立した感覚や自己肯定感が高まる。
  5. 人間関係の質向上

    • SNS上のつながりよりも、リアルなコミュニケーションに時間を割くことで孤独感や不安が減る。

 

デジタルデトックスを実践するコツ

  1. 目標を明確にする

    • 何時間、どのアプリをどの程度使わないか、具体的な目標を立てる。
    • 例えば「寝る2時間前からスマホを触らない」「週末はSNSをオフにする」など。
  2. 一気に減らすのではなく段階的に

    • いきなりスマホを完全に使わないのはハードルが高い。まずは1日30分オフ、あるいはSNSを2つから1つに減らすなど小さなステップを踏む。
  3. 代替行動を用意する

    • スマホが手元にないと落ち着かない場合、読書や散歩、音楽鑑賞などの「置き換え行動」を用意。
    • 机の上に本を積んでおく、イヤホンをすぐ使える状態にするなど環境を整える。
  4. 家族や友人に告知しておく

    • 「この時間は連絡が取れない」と周囲に伝えると、着信やメッセージが来ても気にしなくて済む。
    • 家族やパートナーと一緒にデジタルデトックスを行うのも手。
  5. 成果を記録する

    • デジタルデトックスの日数やSNS使用時間の変化をメモやアプリで記録。数字として可視化するとモチベーションが高まる。

 

まとめ

デジタルデトックスとは、'''スマホSNSなどのデジタル機器から意図的に距離を置き、心身をリフレッシュする行為'''と捉えられています。イギリスの実験(Smith et al., 2018)で週末2日間のスマホオフによってストレスが12%減少、アメリカのHunt et al.(2018)によるSNS利用制限試験でもうつ症状が最大20%低下するなど、具体的なデータが報告されています。日本でも大学生や企業事例で10~15%程度のストレス改善が確認されるなど、デジタル機器から適度に離れることがメンタルに好影響をもたらすのは共通の傾向です。

一方、デジタル機器は仕事や日常生活に欠かせない側面もあり、完全にシャットアウトするのは現実的でない場合が多いでしょう。'''重要なのは、どの程度・どの時間帯・どのアプリにおいてデジタルを制限するか'''を明確にし、少しずつ習慣を変えていくことです。夜のSNS利用を減らして睡眠の質を上げる、週末だけでもネットから離れるなど、無理のない方法を選びましょう。

ストレス社会を生き抜くためには、自分の心身の状態を客観的に把握し、必要なケアを行うことが不可欠です。デジタルと上手に付き合うために、'''「あえて使わない時間」を設けるという選択肢が、メンタルヘルスを守る一つの大切な方法'''だと言えます。ぜひ自分に合ったデジタルデトックスのスタイルを見つけ、ストレス軽減と心の余裕を手に入れてください。

(本記事はSmith et al. (Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 2018), Hunt et al. (Journal of Social and Clinical Psychology, 2018), 経済産業省(2019年)などの研究・事例を参照し、執筆しています。デジタルデトックスの実践にあたって体調を崩したり強い不安を感じた場合は、専門家への相談も検討してください。)