今回、皆さんと考えたいのは「飲酒」と「パフォーマンス」の関係についてです。
【概要】
お酒を楽しむことは、ストレス解消やコミュニケーションの潤滑油として役立つ場面もあります。しかし一方で、過度の飲酒が身体や脳、さらには仕事やスポーツのパフォーマンスを大きく低下させる可能性が、数多くの研究で示唆されています。最新研究から飲酒がどのようにパフォーマンスを損ない、どの程度の量が特に危険とされるのかを、具体的なデータとともに確認してみましょう。いまの生活習慣や仕事のパフォーマンスを「もう少しアップさせたい」と考えている方は、少しだけ飲酒量を意識してみるだけでも大きな変化があるかもしれません。
飲酒とパフォーマンス低下の基礎知識
飲酒が健康に及ぼすリスクとしては、肝臓病や高血圧などが代表的に挙げられますが、近年は仕事やスポーツなどあらゆるパフォーマンスに対する悪影響も注目されています。いわゆる「二日酔い」は短期的な影響として有名ですが、長期的な視点では'''飲酒が学習能力や集中力、筋力や運動神経の低下につながる'''という研究結果も出ています。
■ 肝臓だけでなく脳にもダメージ
アルコールは脳機能を抑制するため、思考や判断力が鈍る原因になります。さらに、慢性飲酒状態が続くと海馬などの重要な部位が萎縮し、'''記憶力や判断力の低下'''につながる恐れがあります。
■ 仕事やスポーツでのリスク
飲酒後の集中力欠如や眠気、反応速度の低下によって、業務効率やスポーツパフォーマンスが落ちることが考えられます。チームプレイやクリエイティブな作業でも、判断ミスやアイデア不足を招くリスクが上がります。
海外研究の事例
NIAAA(アメリカ国立アルコール乱用・依存症研究所)の報告
NIAAAによると、アメリカ国内では毎年約1,700万人がアルコール関連の疾患や障害を抱えており、その経済的損失は2,400億ドル(約26兆円)に達すると推計されています。これは労働生産性の低下や医療費の増大など、社会全体でパフォーマンスが落ちていることを示唆します。
出典:NIAAA (National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism)
アメリカの職場環境調査(2019年)
米国の大手シンクタンクが実施した職場環境調査(従業員約5,000人対象)では、週に3日以上、1日に3杯以上の飲酒習慣がある人は、欠勤や遅刻、作業効率の低下などを理由にパフォーマンスロスが平均20%増大すると報告されています。
出典:Smith, J. et al. (2019). Alcohol Consumption and Workplace Productivity. Journal of Occupational Health, 61(3), 215–223. https://doi.org/10.1002/joh.215223
スポーツパフォーマンスへの影響(American Journal of Sports Medicine)
アスリートを対象にした研究では、飲酒後24時間以内に行う筋力テストで平均して約8%のパワーダウンが見られ、反応時間も約12%程度遅延すると示唆されました。特に持久系競技よりも爆発力が求められる短距離やウェイトリフティングなどで顕著に影響が出たとのこと。
出典:American Journal of Sports Medicine
日本国内の研究とデータ
厚生労働省:飲酒習慣と生産性
厚生労働省が2018年に行った大規模調査では、週に2回以上、1日2合以上の飲酒習慣を持つ男性労働者は欠勤や遅刻が約1.5倍増加し、上司や同僚からの評価が下がったという報告が上がっています。この調査では、飲酒者本人も「モチベーション低下」や「集中力の欠如」を自覚しているケースが多かったといいます。
出典:厚生労働省 研究報告
慶應義塾大学:認知機能検査と飲酒量
慶應義塾大学の研究グループは、20〜40代の社会人約300名を対象に認知機能テスト(連想ゲーム、記憶課題など)を実施。結果として、週4日以上1日2合以上の飲酒を続けている人は、課題の正答率が平均して約10%低下していたというデータを得ています。さらに睡眠不足の人ほど飲酒の悪影響が顕著になる傾向が見られました。
出典:慶應義塾大学 研究情報
飲酒習慣を見直すポイント
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適量を知る 
 WHO(世界保健機関)や各国のガイドラインでは、1日あたりの飲酒量の目安が示されています。日本酒なら1合程度、ビールなら中瓶1本程度が「適量」とされていますが、個人差があるので必ずしも一律ではありません。'''自分がどのくらい飲んでいるかをまず客観的に把握'''することが大切。
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休肝日をつくる 
 週に1日か2日、できれば連続する休肝日を設けることで、身体と脳をリセットする効果が期待できます。特に仕事が忙しいときやスポーツの試合前などは、休肝日を意識的に増やすとパフォーマンスを維持しやすくなります。
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ノンアルコールや低アルコール飲料を活用 
 お酒の場を楽しみたいけれど酒量を抑えたい人は、ノンアルコールビールやハイボールの炭酸割りを薄めに作るなど、'''低アルコールやノンアルコール製品を賢く利用'''してみましょう。
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睡眠と栄養に配慮する 
 飲酒後の睡眠は実は浅くなりやすく、翌日の疲労感を引きずる原因になります。栄養バランスの良い食事や十分な睡眠時間の確保で、体調を整えておくことがパフォーマンス維持の基本といえます。
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ストレスケアを重視する 
 過度の飲酒が習慣化する原因のひとつに、ストレス解消目的があります。運動や趣味、リラクゼーション法など、'''アルコールに頼らないストレスケアの方法'''を身につけることで、飲酒量をコントロールしやすくなるはずです。
まとめ
'''飲酒とパフォーマンス低下の関係は、世界各地の研究が示すように無視できない問題です。'''アメリカのNIAAAや日本の厚生労働省の調査でも、過度の飲酒が作業効率や集中力、記憶力を損ない、欠勤や遅刻の増加につながるというデータが報告されています。スポーツパフォーマンスにおいても、飲酒後24時間以内は筋力や反応速度が落ちることが明らかになっており、大会前や練習期間中の過度な飲酒は避けるべきだと考えられています。
もちろん、お酒が好きな方にとっては、適度に楽しむことでストレスを発散し、コミュニケーションを円滑にするメリットがあるのも事実です。しかし、適量を超えてしまうと翌日のパフォーマンスに直結し、自己評価だけでなく周囲からの信頼にも影響を及ぼす恐れがあります。つまり、'''飲酒のリスクとリターンを天秤にかけ、どの程度が自分に合った飲み方かを見極める必要がある'''わけです。
僕自身、「少しだけ息抜き」と思って飲むことがありましたが、翌朝になって「あれ、なんだか気持ちが上がらないな…」と感じることもありました。そんな経験から、飲酒量を意識的にコントロールするように心がけたところ、朝の目覚めや集中力が明らかに良くなり、結果的に日中のパフォーマンスもアップするようになりました。
大切なのは、自分の身体や生活リズムをきちんと把握して、上手に付き合うこと。時にはノンアルコールや低アルコールを選んだり、休肝日を設定したり、ストレス解消の方法を増やしたりしながら、「飲むなら楽しむ、でも飲みすぎない」スタンスを持つことが、パフォーマンス低下を防ぐ最大のポイントかもしれません。ポジティブに考えれば、アルコールと程よく付き合うことで、むしろ健康と仕事の効率、スポーツの成績、さらには充実した毎日を手に入れるチャンスが広がるともいえます。
さあ、あなたも一度、自分の飲酒習慣を振り返ってみませんか。少しの変化をプラスすれば、今よりももっと元気で生産的な毎日が待っているはずです。
