メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

2度の「育休」と「介護休職」を乗り越えた「鋼メンタル」の持ち主。ポジティブな思考や言葉をこよなく愛する複数企業の役員・心理カウンセラー。

「1日2合以上の飲酒」が認知症リスクを高める理由とは?

今回、皆さんと考えたいのは「飲酒」と「認知症」の関係についてです。

【概要】

近年、「飲酒」と「認知症」に関する関係が多くの研究で取り上げられています。適度な飲酒がストレス発散につながるという声もある一方、過度の飲酒は認知症のリスクを高める可能性が指摘されています。海外や日本の研究では、具体的な数値やデータを示しつつ、その因果関係や影響の度合いを検証する動きが盛んです。今回は、そうした研究成果をもとに、飲酒が認知症リスクにどのような影響を与えるのかを探りながら、飲酒習慣を見直すポイントをポジティブに考えていきたいと思います。

飲酒と認知症

まず、認知症とは記憶や判断力、思考力などが低下し、日常生活に支障をきたす状態の総称です。アルツハイマー認知症や血管性認知症などさまざまなタイプがありますが、生活習慣がリスク要因として大きく関わる場合も少なくありません。飲酒に関しては、'''過度の酒量が脳にダメージを与え、認知機能の低下を進める可能性'''が指摘されています。

■ 適度な飲酒は問題ないのか?

一方で、「適度な飲酒が健康に良い」という説も根強くあり、実際に少量の赤ワインなどが心血管疾患リスクを下げるという報告もあります。しかし、それがそのまま認知症予防に直結するかどうかについては、現時点では完全に一致した見解があるわけではなく、むしろ'''飲酒量とのバランスや個人差が大きい'''と考えられています。

アメリカを中心とした海外研究の動向

ランセット・パブリックヘルス(2018年)

フランス国内で行われた57,353人の若年性認知症患者データを解析した研究(Schwarzingerら)では、'''約66.7%が何らかのアルコール使用障害と関連していた'''と報告されました。過度の飲酒が若年性認知症の主要なリスク要因になるという衝撃的な結果であり、世界的にも大きな注目を集めています。
出典:Schwarzinger M, et al. (2018). Contribution of alcohol use disorders to the burden of dementia in France 2008–13: a nationwide retrospective cohort study. The Lancet Public Health, 3(3): e153–e161. https://doi.org/10.1016/S2468-2667(18)30022-7

アメリカ・国立衛生研究所(NIH)の見解

NIHが公表している資料によると、過度の飲酒は脳の海馬(記憶形成に関わる領域)の体積減少と関連性があり、認知症リスクを高める可能性があるとされます。また、中~高年齢層で1日に3杯以上の飲酒を続けると、記憶障害や認知機能低下の進行が早まる傾向が示唆されています。
出典:National Institute on Aging, NIH

BMJ 2018年のコホート研究

「Whitehall II」コホートを対象に約23年間追跡した研究では、週14単位(イギリス基準で約112gのアルコール相当)以上の飲酒を行う人は、軽度の飲酒者や禁酒者に比べてアルツハイマー認知症を発症するリスクが約1.5〜2倍高いと報告されています。
出典:Sabia S, et al. (2018). Alcohol consumption and risk of dementia: 23 year follow-up of Whitehall II cohort study. BMJ, 362: k2927. https://doi.org/10.1136/bmj.k2927

日本国内の研究とデータ

厚生労働省:飲酒習慣と認知症に関する調査

厚生労働省が2019年に発表した調査では、'''週5日以上、1日2合以上の飲酒習慣を持つ中高年男性は、認知症発症リスクが約1.4倍'''に上昇するとの結果が示されています(この2合とは日本酒換算)。同調査では、ストレスや生活習慣病の併発など複合的要因も考慮が必要としつつも、過度の飲酒が脳血管へのダメージを通じて認知機能に影響を与える可能性があると警鐘を鳴らしています。
出典:厚生労働省 研究報告

慶應義塾大学:軽度認知障害(MCI)と飲酒

慶應義塾大学の研究グループは、軽度認知障害(MCI)の段階での飲酒量と認知機能の推移を観察。結果として、MCIの段階でも週14単位以上の飲酒を続けている群は、約3年以内に認知症へ移行する率が1.8倍に上ると発表しています。この報告から、認知症予防の視点で見ても飲酒量のコントロールが鍵とされています。
出典:慶應義塾大学 研究論文

飲酒習慣を見直すためのポイント

■ 1. 飲酒ガイドラインを意識する
アメリカ心臓協会(AHA)や世界保健機関(WHO)などが示す飲酒ガイドラインでは、男性は1日1~2杯、女性は1日1杯程度が「適度な量」とされています。日本酒換算で1合程度が目安とも言われますが、実際には個人差もあるため、'''自分がどのくらいの量を飲んでいるかを客観的に把握する'''ことが大切です。

■ 2. ノンアルコールやハーフサイズを活用
最近ではノンアルコールビールやハーフサイズのカクテルなど、アルコール度数や量を抑えた製品が増えています。飲酒の楽しみを完全に断たなくても、'''週に何日かはノンアルコールや低アルコールで過ごす'''などの工夫で、認知機能へのリスクを緩和できるかもしれません。

■ 3. 食事や運動とのバランスを保つ
適量の飲酒であっても、偏った食生活や運動不足が続けば生活習慣病のリスクが高まります。'''定期的な運動や栄養バランスの良い食事'''とセットでアルコールを楽しむことで、総合的な健康リスクを低減しましょう。

■ 4. 早期の医療相談・サポート
もし「飲酒量がコントロールできなくなってきた」「記憶力や判断力の低下が気になる」という場合は、迷わず専門家への相談を検討してみてください。主治医や専門クリニック、地域の保健所などがサポートを行っており、'''早めに対処すれば対策の幅が広がる'''とされています。

■ 5. ストレスケアと併せて考える
ストレス発散目的で飲酒量が増えるケースも多々ありますが、'''深呼吸・瞑想・趣味・友人との交流などアルコール以外のストレス解消法'''を持つことも、認知機能を保つうえで効果的です。

まとめ

'''飲酒と認知症の関係について、過度の飲酒がリスクを高めるという研究結果は世界各地で報告されています。'''フランスの大規模研究(ランセット・パブリックヘルス, 2018年)では若年性認知症の大半がアルコール使用障害と関連していると示され、アメリカの国立衛生研究所(NIH)やBMJコホート研究でも、過度の飲酒が認知機能低下を加速させる傾向が強調されています。日本国内でも、厚生労働省の調査や慶應義塾大学の研究で、1日2合以上の飲酒習慣が認知症リスクを高めるデータが示唆されました。

ただし、「全く飲酒してはいけない」というわけではありません。適度な飲酒が楽しみやリラックスをもたらすケースもあり、個人差も大きいのが現実です。しかし、その一方で'''飲みすぎや長期的な大量消費が脳にダメージを与え、認知症への道を早める可能性'''は多くの研究が警告しているところ。だからこそ、自分の飲酒量を見直し、適切な範囲を守ることが大切です。

僕自身、仕事のストレスから「ちょっと一杯」と思う瞬間があります。けれども、「今は本当に飲みたい気持ちか、それとも別の方法でストレスを解消できないか?」と考えるようにすると、無意識の飲みすぎを防げることに気づきました。時にはノンアルコール飲料や炭酸水で気分を紛らわせたり、音楽を聴いたり運動をしてリフレッシュしたりするだけで、翌日の朝もすっきり迎えられます。

大切なのは、自分の飲酒スタイルを客観的に把握し、どうすれば心身の健康を保ちつつ楽しめるかを探る姿勢です。認知症は誰にとっても避けられないリスクではありますが、生活習慣をコントロールすることで、そのリスクを大きく左右できる可能性が高まります。アルコールとの付き合い方を見直しながら、明るく前向きに、そして長く健康的な人生を送るための一歩を踏み出してみましょう。