メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

2度の「育休」と「介護休職」を乗り越えた「鋼メンタル」の持ち主。ポジティブな思考や言葉をこよなく愛する複数企業の役員・心理カウンセラー。

「闘争ホルモン」アドレナリンを味方につける方法とは?

今回、皆さんと考えたいのは「闘争ホルモン」と「アドレナリン」の関係についてです。

【概要】

私たちが興奮したり、危機的状況で「闘争モード」に入ったりするとき、身体の中で大きな役割を担っているのがアドレナリンです。しばしば「闘争ホルモン」と呼ばれるこの物質は、ストレスや緊張感をきっかけに大量分泌され、身体能力や集中力を瞬間的に高めてくれます。ただし、使い方を間違えると過度のストレスや疲労を招く恐れもあります。最新研究論文を参考にアドレナリンがもたらす効果や、ポジティブに活かす方法を探ってみましょう。育児をしながら忙しい毎日を送っている僕自身も、このアドレナリンの力を上手に活かせたら、より楽しく前向きに生活できるのではないかと日々感じています。

闘争ホルモンとアドレナリン

私たちの体は、危機的状況に直面すると自律神経系が活発に動き、'''交感神経が優位になった際に副腎髄質から放出されるのがアドレナリン'''です。これを「闘争ホルモン」と呼ぶのは、動物が捕食者から逃げる、あるいは闘うといった「ファイト・オア・フライト(fight or flight)」反応を起こす際に不可欠な物質だから。

  • 血管の収縮と血圧上昇
    アドレナリンが分泌されると、血管が収縮して血圧が上昇し、筋肉や脳に血液を集中させます。これによって一時的に身体能力や思考のスピードが高まり、緊急事態で素早く対応できるようになります。
  • 呼吸数の増加・心拍数の上昇
    心拍数と呼吸数が上がることで、身体に取り込まれる酸素量が増加。瞬発的に大きな力を発揮したり集中力を高める助けとなります。

このように、アドレナリンは危機的状況や大きなストレスに対応するためのホルモンです。適切に働くときは大きな助けとなる一方、過剰に分泌されると緊張状態が続き、ストレスホルモン(コルチゾール)との相乗効果で体に負担をかけることがあります。

アメリカを中心とした海外研究でわかったこと

アメリ国立衛生研究所(NIH)のデータ

アメリカの国立衛生研究所(NIH)が公表している文献によれば、アドレナリンは交感神経系の刺激により急激に分泌され、血糖値を一時的に最大で約30〜40%上昇させる可能性があるとされています。この上昇によって、身体が短時間で大量のエネルギーを使える状態になるわけです。
出典:NIH (National Institutes of Health)

アドレナリンとパフォーマンス

アメリカのスポーツ心理学の研究では、適度なストレスがかかる状況(例えば試合直前)のアドレナリン分泌が、選手の筋力発揮や集中力を一時的に向上させると示唆するデータがあります。心拍数が上昇した段階での瞬間的な筋出力は、平常時より約5〜10%増加するとの報告も。
出典:American Journal of Sports Medicine

イギリス・バーミンガム大学:プレゼンテーションとアドレナリン

バーミンガム大学の研究チームが実施した実験によると、プレゼンテーションや試験などの精神的プレッシャーに晒された際、唾液中のアドレナリン濃度が平均で約2倍に上昇。同時に被験者の注意力テストの成績が10%向上したと報告しています。
出典:University of Birmingham

日本国内の研究とデータ

慶應義塾大学:交感神経と学習効果

慶應義塾大学の研究グループは、試験直前の学生を対象にアドレナリン分泌量を測定。結果として、アドレナリン分泌が高い学生ほど短期的な暗記テストの正答率が約8%高かったというデータを得ています。ただし、あまりに緊張が強すぎる場合は逆にパフォーマンスが低下するため、「適度な緊張は有益、過度な緊張は逆効果」というYerkes-Dodsonの法則と合致する結果だと考えられます。
出典:慶應義塾大学 研究情報

大阪大学:ストレス状況下でのアドレナリンとコルチゾール

大阪大学の研究チームは、社会的ストレス(面接やスピーチなど)を与えた被験者の血中アドレナリンとコルチゾール濃度を測定し、アドレナリンが上昇するとほぼ同時にコルチゾールも増加傾向があることを確認しています。ただし、後者のコルチゾールが長時間分泌されると慢性ストレスに発展しやすくなるため、アドレナリンを使った瞬発的な集中力アップと、ストレスマネジメントをセットで考える必要があると指摘しています。
出典:大阪大学

アドレナリンを上手に活かすポイント

アドレナリンは「闘争ホルモン」という呼び名からもわかる通り、本能的なサバイバルモードを引き出す物質です。では、日常生活や仕事、勉強などでどのように活かすべきなのでしょうか。

  1. 適度なストレスを歓迎する
    完全にストレスフリーの環境では、むしろ人間のモチベーションや集中力は低下しがち。適度な目標や期限がある状況は、アドレナリン分泌を促し、頭の回転や身体能力を一時的に引き上げます。**「少し緊張しているくらいがちょうど良い」**という考えで、あえてチャレンジングな目標を設定するのも手。

  2. 深呼吸でコントロールする
    アドレナリンが過剰になると動悸が激しくなったり、頭が真っ白になったりします。そこで、深呼吸やゆっくりとした呼吸法(4秒吸って4秒止め、8秒で吐くなど)を取り入れることで、交感神経の過剰反応を抑え、副交感神経をある程度優位にすることができます。

  3. 「ここぞ」という場面を決める
    アドレナリンは長時間持続する物質ではありません。だからこそ、大切なプレゼンや試合など「ここぞ」という場面に合わせて自分を鼓舞し、闘争ホルモンをうまく誘発するのがコツ。事前に音楽を聴いたり、軽い運動で血行を良くしておくと効果的とする研究もあります。

  4. アフターケアで疲労を軽減
    先述のように、アドレナリンとコルチゾールはしばしばセットで分泌されます。大量のエネルギーを消費したあとは、必ず十分な休息や栄養補給を行い、体をいたわることが重要です。ゆったりとお風呂に入る、好きな音楽を聴く、良質な睡眠をとるなどのアフターケアで副交感神経を高め、体と心をリセットしましょう。

  5. オキシトシンセロトニンとのバランス
    幸福感やリラックスをもたらすオキシトシンセロトニンなどのホルモンと、アドレナリンは対照的な働きをする面があります。「激しく動き、強い集中力を発揮する時間」と「穏やかな気分で休む時間」のメリハリをつけることで、全体的なパフォーマンスと健康のバランスを保ちやすくなります。

まとめ

'''闘争ホルモンと呼ばれるアドレナリンは、瞬時の集中力や身体能力を高める一方、過剰になるとストレスを増幅させるリスクも持ち合わせている両刃の剣'''です。アメリカやイギリスの研究、日本国内の実験結果などからも、適度なアドレナリン分泌はパフォーマンス向上に役立つものの、コルチゾールとともに長期間分泌が続くと疲労や不安を招く可能性が示唆されています。

  • NIHの資料では、危機的状況で血糖値が約30〜40%上昇するデータも報告。
  • スポーツの世界では、心拍数が適度に上がることで筋力や集中力が約5〜10%アップするケース。
  • 日本の大学研究でも、試験直前のアドレナリン増加が暗記テストの正答率を約8%上げる一方で、過度な緊張は逆効果になるとの結果。

こういったデータを踏まえると、アドレナリンを「上手に使う」ことが重要だとわかります。少し緊張する場面を意図的に作ってチャレンジ精神を引き出すのは有効ですが、その後は必ず休息をとり、コルチゾールを下げて体をいたわることが欠かせません。

忙しい毎日を送る中でも、たとえば「早めにやらねば!」と少しだけ自分にプレッシャーをかけると、家事や仕事がサクサク進む場面があります。しかし、やりすぎると疲弊してしまい、他者にも優しく接しづらくなるもの。だからこそ、アドレナリンの力を「一時的なブースト」として捉え、上手にオンオフを切り替える習慣を身につけたいですよね。

そうすれば、必要なときにしっかり集中力を出し、終わったら自分を褒めて、オキシトシンセロトニンを分泌させてリラックスするという好循環が生まれます。まさに、「戦うときは戦い、休むときは休む」メリハリを実践すれば、私たちの心身はもっとポジティブに動かせるのではないでしょうか。アドレナリンという闘争ホルモンを味方につけ、前向きで充実した毎日を作っていきましょう。