メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

2度の「育休」と「介護休職」を乗り越えた「鋼メンタル」の持ち主。ポジティブな思考や言葉をこよなく愛する複数企業の役員・心理カウンセラー。

「覚醒ホルモン」ノルアドレナリンがパフォーマンスを高める理由とは?

今回、皆さんと考えたいのは「覚醒ホルモン」と「ノルアドレナリン」の関係についてです。

【概要】

私たちの身体には、やる気や集中力を引き出し、いわば「覚醒状態」をつくり出すホルモンがあります。しばしば「覚醒ホルモン」と呼ばれるそれらの物質の中でも、'''ノルアドレナリン'''は脳や身体を素早く目覚めさせ、緊張感を与えることでパフォーマンスを高める重要な役割を担っています。海外や日本国内の研究でも、ノルアドレナリンが学習や運動、さらには感情面でどのように作用しているかが注目されてきました。この記事では、覚醒ホルモンとしてのノルアドレナリンに焦点を当て、その仕組みや活かし方を、わかりやすく解説していきます。毎日をエネルギッシュに過ごすためにも、ノルアドレナリンをポジティブに利用できたら素敵だと思いませんか。ぜひ一緒に学んでいきましょう。

覚醒ホルモンとノルアドレナリン

私たちの体や脳が「さあ、やるぞ!」と気合いを入れるとき、または危険を察知して素早く動かなければならないときに活発に分泌されるホルモンのひとつがノルアドレナリンです。

  • '''ノルアドレナリンとは'''
    副腎髄質や脳幹の青斑核などで合成・分泌される神経伝達物質。交感神経を刺激し、心拍数や血圧、呼吸数の上昇を促します。生物にとっては「闘争・逃走反応(Fight or Flight)」を円滑に進めるために必須のホルモンです。

  • '''覚醒ホルモンと呼ばれる理由'''
    ノルアドレナリンが分泌されることで、脳が瞬時に活動状態へ切り替わり、注意力や判断力が研ぎ澄まされます。朝目覚める際や試合・試験の直前など、私たちが集中を必要とするときにも活躍するため、「覚醒ホルモン」として紹介されることがあります。

  • '''ドーパミンとの関係'''
    似たような役割を果たす物質として、やる気や快感に関与するドーパミンがありますが、ノルアドレナリンは主に覚醒や注意力、危機対応をより強くサポートする面が特徴。脳の報酬系を活性化するドーパミンと異なり、ノルアドレナリンは「危機察知と瞬発力」にフォーカスする物質と言えます。

アメリカを中心とする研究

アメリ国立衛生研究所(NIH)の報告

アメリ国立衛生研究所(NIH)はノルアドレナリンの効果やメカニズムに関する多くの研究を蓄積してきました。NIHの文献によると、'''ノルアドレナリンが分泌されると心拍数が平均で約15〜20%増加し、血圧は最大で30%ほど上昇することがある'''と報告されています。これは短期間で身体が興奮状態になり、高い集中力を発揮するための準備が整うことを示すデータです。
出典:NIH (National Institutes of Health)

スタンフォード大学脳科学研究

スタンフォード大学の研究チーム(2019年)は、被験者に複数の課題を与えながら脳活動をfMRIで観察する実験を行い、'''ノルアドレナリンが多く分泌されているときの被験者は集中テストでの正答率が平均して約10%上昇した'''ことを発見しました。一方で、ノルアドレナリン値が低下すると集中力が散漫になり、誤答率が高まる傾向が見られたとのこと。
出典:Stanford University

ヴァンダービルト大学:自律神経との関連

アメリカ・ヴァンダービルト大学の研究では、ストレス環境下でノルアドレナリンが過度に分泌されると、興奮状態が長く続き、結果的に疲労や不眠を引き起こしやすくなる可能性があると示唆されています。'''特に慢性的なストレスを抱える人は、心拍数や血圧の高さが持続し、心身への負担が増大するリスクがある'''とのデータが報告されています。
出典:Vanderbilt University

日本国内の研究とデータ

慶應義塾大学:学習能力との関係

慶應義塾大学の研究グループは、試験直前の大学生約50名を対象に、唾液中のノルアドレナリン濃度と学習成績との関連を調査しました。その結果、'''ノルアドレナリン濃度が高い学生ほど、短期記憶テスト(単語や数字の暗記)の正答率が平均約8%高かった'''とのデータを得ています。ただし、過剰に高すぎる場合は逆に緊張しすぎてパフォーマンスが落ちる傾向も見られたそうです。
出典:慶應義塾大学 研究情報

東京大学ノルアドレナリンと認知機能

東京大学が2018年に発表した論文では、ノルアドレナリンの分泌が脳の前頭前野に与える影響をfMRIで解析。課題に集中している最中にノルアドレナリンが高まると、前頭前野の活動が約15%増加し、'''情報処理スピードや判断力が向上する可能性'''が示唆されました。ただし、あまりに長時間の課題を連続して行うと、ストレス反応が高まり、ノルアドレナリンの過剰放出による疲労が見られたという結果も。
出典:東京大学

大阪大学:興奮と安心のバランス

大阪大学の研究チームが行った実験では、激しい運動を行った被験者のノルアドレナリン値が平均で約2倍に上昇し、その後30分以内に急激に低下するパターンが確認されました。このとき、適度なリラックス(副交感神経優位)を挟むことで、疲労感やストレスレベルを最小限に抑えられる可能性があると報告されています。'''ノルアドレナリンの上昇と下降をうまくコントロールすることで、集中力と休息を効率的に切り替えられる'''というわけです。
出典:大阪大学

ノルアドレナリンを上手に活かすポイント

ノルアドレナリンは、適度に分泌されればやる気や集中力を高めてくれる「覚醒ホルモン」ですが、過剰になるとストレスや不眠の原因になることも。以下に、ノルアドレナリンをポジティブに活かすための具体的なコツをまとめてみました。

  1. 短い集中タイムをセットする
    長時間ずっと集中しっぱなしでは、ノルアドレナリンが過剰に分泌され、疲弊しやすくなります。たとえば「25分集中→5分休憩」のサイクル(ポモドーロ・テクニック)を用いると、'''適度にノルアドレナリンを高めつつ、こまめにリセットできる'''ので、集中力が持続しやすくなるとの報告もあります。

  2. 有酸素運動や軽い運動の活用
    適度な運動はノルアドレナリンを上昇させ、気分転換や血行促進を図れます。週に2〜3回、ウォーキングやジョギングなどを取り入れるだけでも、エネルギーを発散して良い覚醒状態を保つ手助けになるでしょう。

  3. 深呼吸・リラクゼーションを挟む
    ノルアドレナリンが高まった状態を長引かせると、交感神経が優位になりすぎて副交感神経とのバランスが崩れがちです。'''大きく深呼吸して副交感神経を刺激し、体を意図的にクールダウンさせる時間をつくる'''と、次の集中に備えやすくなります。

  4. 目標設定と達成感
    自己効力感を得るときにもノルアドレナリンは分泌されやすいといわれます。小さな目標を設定し、それを達成したら自分を褒める、というポジティブなサイクルを作ることで、'''やる気と覚醒状態をほどよく維持する'''ことができます。

  5. カフェインとの併用に注意
    コーヒーやエナジードリンクに含まれるカフェインも一時的に覚醒作用を強めることがあります。ただし、ノルアドレナリンとの相乗効果で興奮状態が強くなりすぎる場合もあるので、'''夕方以降の飲みすぎには要注意'''。夜の睡眠を妨げるリスクが高まります。

まとめ

'''覚醒ホルモンとして知られるノルアドレナリンは、短時間で集中力や判断力を高め、心と体を動かす大きなエネルギー源'''となります。アメリカや日本国内の研究でも、ノルアドレナリンが上昇したときに認知機能やパフォーマンスが向上することが度々報告されてきました。

ただし、ノルアドレナリンが過剰に分泌されると、ストレスや緊張感が高まりすぎて疲弊しやすくなります。いわば「緊張と緩和」のバランスを保つことが大切。やる気を引き出すためにノルアドレナリンを使いつつ、適度な休憩やリラクゼーションで副交感神経もいたわる時間を設けるのが、心身の健康と高パフォーマンスの両立には不可欠です。

僕自身、「今ちょっと頑張りたい」というときは自然とノルアドレナリンが働いているんだろうな、と感じる場面が多々あります。例えば、朝の忙しい時間帯に短期決戦で家事をこなすときや、子どもがグズっているときに素早く対処しなくてはならないときなど。しかし、それが長時間続いてしまうとさすがにクタクタになり、イライラしてしまうんですよね。だからこそ、ノルアドレナリンが高まった後には深呼吸やちょっとした休憩、好きな音楽を聴くなどのリセットが重要。

「やるべきときに集中し、休むときにきちんと緩める」――このメリハリを意識することで、ノルアドレナリンという覚醒ホルモンをうまく味方につけ、日々の生活をよりポジティブに充実させられるはずです。皆さんもぜひ、自分の体や気持ちと対話しながら、ノルアドレナリンとの上手な付き合い方を見つけてみてください。