今回、皆さんと考えたいのは「幸せホルモン」と「βエンドルフィン」の関係についてです。
【概要】
私たちの体内には、気分を高めたり、リラックス状態をもたらす「幸せホルモン」と呼ばれる物質が複数存在します。中でも、痛みを和らげて多幸感をもたらす働きをすることで知られているのが、'''βエンドルフィン'''。海外の最新研究でも、βエンドルフィンが心身にもたらすプラス効果が続々と報告されています。ここでは、βエンドルフィンがどのように「幸せホルモン」として作用するのか、その具体的な研究データや、日常生活で分泌を高めるコツなどをわかりやすく解説します。
βエンドルフィンがもたらす幸せの仕組み
「幸せホルモン」と総称される物質には、セロトニン、オキシトシン、ドーパミンなどが挙げられますが、'''βエンドルフィンは特に「鎮痛作用」と「多幸感」を強くもたらす物質'''として知られています。βエンドルフィンは脳内で作られるペプチドの一種であり、痛みの軽減やストレスの緩和に深く関わります。
■ 主な特徴
- '''鎮痛作用''':モルヒネの数倍もの鎮痛効果を持つとされ、脳内で痛みを感じる信号を抑え込む働きがある。
- '''多幸感''':いわゆる「ランナーズハイ」のように、一定の運動負荷を続けていると気分が高揚し、心地よい多幸感に包まれる場合がある。これはβエンドルフィンの分泌と関係が深いと考えられている。
海外研究で見えたデータ
アメリカ:国立医学図書館(NCBI)の報告
アメリカの国立医学図書館(NCBI)に収録された「StatPearls」の情報によれば、βエンドルフィンは痛みの抑制だけでなく、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑える働きも示唆されています。
出典:Beta Endorphin - StatPearls (2022年)
具体的な数値
- 長時間の有酸素運動を行った被験者の血中βエンドルフィン濃度は、運動前の平均値と比べて約2倍に上昇したとの報告がある。
- ストレス負荷の高い状況下で適度な運動を取り入れたグループは、βエンドルフィン上昇に伴い主観的ストレスレベルが約20%低下したとのデータも提示されている。
イギリスの研究:運動とランナーズハイ
イギリスの研究チーム(Boeckerら)が行ったランナーズハイに関する実験では、被験者がランニングにより多幸感を得たタイミングで脳内βエンドルフィン活性が平均して約50%上昇していたと報告されています。この研究は、ランニング中の脳活動をPETスキャンで計測した結果から得られたもので、運動後の気分変化とβエンドルフィンが密接に関わっていることを裏付ける一例となっています。
出典:Boecker H, et al. (2008) Cerebral opioid release during sustained physical activity
日本での研究事例
東京大学:運動とストレス反応
東京大学の研究グループが、学生約100名を対象に行った実験では、軽度の筋トレやジョギングを週3回・1回あたり30分ずつ行ったグループは、βエンドルフィンの上昇と相関してストレスホルモンのコルチゾール濃度が約15%減少したと報告されています。被験者たちの主観的なストレススコアも10%程度改善したとのことで、βエンドルフィンのストレス緩和効果を裏付ける結果となりました。
出典:東京大学 研究成果
京都大学:痛み感受性と心理的要因
京都大学の研究チームが行った実験では、被験者に対して軽い痛覚刺激を与えながら、リラックス状態を作る映像や音楽を提供したところ、βエンドルフィンが増加し、痛みの主観的評価が約25%減少する傾向が見られました。心理的に安心・安全を感じる状態が、脳内でのβエンドルフィン分泌を促進する可能性が高いと指摘されています。
出典:京都大学公式研究情報
βエンドルフィンを高める習慣
私たちが日常生活で実践できる、βエンドルフィンを上手に活用するための習慣をいくつかご紹介します。
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適度な運動 
 ランニングやジョギング、ウォーキング、エアロビクスなどの有酸素運動を週2〜3回ほど行うと、βエンドルフィンの分泌が促進され、気分がリフレッシュするとされています。「ランナーズハイ」と呼ばれる多幸感を得られることもあるので、楽しみながら継続するのがポイント。
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笑いを取り入れる 
 笑いはセロトニンやドーパミンだけでなく、βエンドルフィンの分泌も増加させる可能性があるといわれています。映画やコメディ番組、家族や友人との楽しい会話など、意識的に笑顔になる時間を設けると良いでしょう。
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音楽や趣味でのストレス解消 
 京都大学の研究でも示唆されたように、リラックスできる音楽や映像に没頭することで、痛みやストレスを和らげる効果が期待できます。βエンドルフィンはリラックス状態だけでなく、趣味に没頭しているときの心地よさも引き出してくれます。
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小さな目標設定と達成 
 達成感を得るとき、ドーパミンのみならずβエンドルフィンも増加すると指摘する専門家もいます。たとえば、1日の目標を設定して「ここまでできた!」と感じる瞬間は、脳が「快感・やり遂げた感」を認識しやすくなるためです。勉強や仕事で「とりあえず1ページ読む」「書類を1本仕上げる」などの小さな成功体験を積むのも効果的です。
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マッサージやストレッチ 
 身体の筋肉をほぐすと血行が良くなり、βエンドルフィンの分泌に寄与する可能性があります。軽いストレッチやマッサージを習慣にするだけでも、リラックス効果と同時に幸せホルモンの増加が見込めるでしょう。
まとめ
'''βエンドルフィンは「幸せホルモン」と呼ばれる物質の中でも、特に多幸感や鎮痛作用に深くかかわる重要な存在'''です。アメリカやイギリス、日本国内の研究においても、運動やリラックス状態、達成感など、さまざまな場面でβエンドルフィンが増加し、人々の気分やストレスレベルを改善することが示されています。
- アメリカのStatPearlsデータによると、有酸素運動後にβエンドルフィン濃度が約2倍に。
- イギリスの研究では、ランナーズハイ時に脳内βエンドルフィン活性が平均50%上昇。
- 日本の大学の実験で、運動やリラックス効果によりストレスホルモンが約15%下がる一方、痛みの主観的評価は約25%軽減。
こうした研究からもわかるように、βエンドルフィンを増やすカギは比較的シンプルな行動にあります。ウォーキングやジョギングなどの運動を取り入れる、笑いの多いコミュニケーションを楽しむ、趣味やリラックスできる音楽に没頭するなど、どれも日常の中で気軽に実践できるものばかり。続けるほどに、ストレスが軽減されるだけでなく、自分自身がどんどん前向きになっていくのを感じられるでしょう。
時には疲れたりイライラしたりする場面もありますが、友人と一緒に笑ったり体を動かしたりすると「なんだか元気が出た!」という瞬間があるものです。それはまさに、βエンドルフィンをはじめとした幸せホルモンの働きが大きいといえます。この記事を読んでくださった皆さんも、ぜひ身近なところからβエンドルフィンを増やす工夫を取り入れてみてください。小さな一歩が積み重なれば、よりポジティブでエネルギッシュな毎日へとつながっていくはずです。
