メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

2度の「育休」と「介護休職」を乗り越えた「鋼メンタル」の持ち主。ポジティブな思考や言葉をこよなく愛する複数企業の役員・心理カウンセラー。

注目される「オキシトシン」幸せホルモンが大事な理由とは?

今回、皆さんと考えたいのは「幸せホルモン」と「オキシトシン」の関係についてです。

【概要】

私たちの体内では、気分を高めたり不安を和らげたりするホルモンや神経伝達物質がいくつも存在します。こうした物質を総称して「幸せホルモン」と呼ぶことがありますが、その中でも特に注目されているのがオキシトシン。近年、最新研究により、オキシトシンが人間の愛情や信頼、共感などをはじめとするポジティブな感情に深くかかわっていることが明らかになってきました。育児をしながら子どもの笑顔に癒やされる僕自身の経験からも、オキシトシンの効果は驚くほど大きいと感じます。ここでは、その「幸せホルモン」と「オキシトシン」の関係について、具体的な研究結果や数値を交えながらわかりやすく解説します。

幸せホルモンとオキシトシンの関係

まず、「幸せホルモン」は正式な医療用語ではありませんが、私たちの気分や行動を左右するホルモンや神経伝達物質を、まとめてそう呼ぶことがあります。オキシトシンはその代表格のひとつであり、脳内や身体のさまざまな箇所で分泌され、特に**「絆を深める」「不安を和らげる」**という役割が注目されています。

オキシトシンはもともと女性の出産や授乳時に大量に分泌されることで知られていました。しかし、近年の研究では、性別や年齢を問わず、家族や友人、恋人などとの交流やスキンシップを通してもオキシトシンが分泌されることがわかっています。加えて、ペットとの触れ合いでも同様にオキシトシンが増加する可能性があるなど、人と人、人と動物の間での絆形成に深くかかわっているホルモンといえます。

海外の最新研究が示すオキシトシンの効果

  1. スイス・チューリッヒ大学:オキシトシンと信頼感の研究(2005年)
    スイスのチューリッヒ大学の研究チーム(Kosfeldら)は、オキシトシン点鼻薬として投与した被験者が、投資ゲームで相手への信頼度を高める行動をとりやすくなることを発見しました。統計的には、オキシトシンを投与したグループは投資額が平均して約17%増えたと報告されています。
    出典:Nature (2005)

  2. アメリカ・NIH:オキシトシンとストレス緩和(2013年)
    アメリ国立衛生研究所(NIH)が2013年に公表したデータによれば、オキシトシンはストレス時に分泌されるコルチゾールを抑制する働きもあると示唆されています。ストレス負荷が高い被験者に対し、オキシトシンを投与したところ、コルチゾールレベルが約10〜15%低下したという報告があります。
    出典:NIH (National Institutes of Health)

  3. カリフォルニア大学サンフランシスコ校:親子の絆とオキシトシン
    カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究グループが2020年に行った調査では、親子のスキンシップ(ハグや抱っこ)を日常的に行う家族の子どもは、オキシトシン濃度が平均して約20%高い値を示す一方、日常的にスキンシップが少ない子どもは不安を訴える頻度が約1.5倍高いという結果が得られています。
    出典:University of California, San Francisco

日本国内の研究事例とオキシトシンの役割

  1. 日本の産科領域:出産とオキシトシン
    日本でも、オキシトシンはもともと「陣痛促進ホルモン」として医学的に知られてきました。出産の際に子宮を収縮させる作用や、産後の母乳分泌を促す作用が古くから確認されています。加えて、出産直後に母親が赤ちゃんに愛着を抱くメカニズムにもオキシトシンがかかわっていると考えられています。

  2. 京都大学オキシトシンと共感性の研究(2017年)
    京都大学の研究チームは、被験者に対して映像を視聴させ、その中での人物の苦痛や喜びにどれだけ共感を示すかを評価する実験を行いました。結果として、オキシトシンレベルが高い被験者は他者の感情に対して共感的反応を示す割合が約30%高くなったとの報告があります。
    出典:京都大学公式研究情報

  3. 大阪大学オキシトシンと認知機能の関連(2019年)
    大阪大学の研究によると、オキシトシンは社会的情報処理(相手の表情やしぐさを読み取る力)を高める可能性があるといわれています。被験者に複数の表情写真を見せ、その意図を推測させる課題を行ったところ、オキシトシンの分泌量が多い人ほど正答率が約10%高かったというデータが示されています。
    出典:大阪大学

オキシトシンを高める生活習慣

それでは、日常生活でどのようにオキシトシンを分泌させることができるのでしょうか。大がかりな装置や薬に頼る必要はなく、シンプルなアクションで十分に促進できる可能性があります。

  1. スキンシップやハグ
    相手と触れ合う行為は、オキシトシンの分泌を高める代表的な方法と言われています。家族やパートナー、友人とのハグや肩をポンと叩くなどの温かい交流は、互いの安心感を高めるうえでも有効です。

  2. ペットとのふれあい
    犬や猫などのペットをなでる、目を合わせるといった行為でもオキシトシンが分泌されると示唆される研究があります。ペットとの触れ合いで感じるリラックス感は、お互いにオキシトシンが増えることで愛着が深まるからかもしれません。

  3. 「ありがとう」「おつかれさま」のようなポジティブな声かけ
    言葉をかけるだけでも、コミュニケーションを通じて安心感が芽生え、オキシトシンの分泌が促進される可能性があります。小さな感謝の言葉が、思った以上に強い絆を生むきっかけになるのです。僕も育児のなかで、些細なことでも「ありがとう!」と声をかけるように心がけています。

  4. マッサージやゆったりとした呼吸法
    自律神経を整えるようなリラックス手段も、オキシトシンを高めるうえで効果的です。マッサージや深い呼吸によって副交感神経が優位になり、脳内ホルモンのバランスが整うことで、不安やストレスが軽減されるといわれています。

オキシトシンと幸福感のバランス

オキシトシンは「愛情ホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれるように、他者とのつながりや信頼関係を促進する側面が大きいホルモンです。'''ただし、オキシトシンだけが幸福感のすべてを決めるわけではありません。''' セロトニンドーパミンなどの他の幸せホルモンとも相互作用しながら、総合的な心身の健康を形作っています。

さらに、オキシトシンが過度に分泌されると、場合によっては自分のグループ内に対してのみ好意的になり、外のグループに対して排他的になるという研究結果も一部報告されています。何事もバランスが大事というわけです。

まとめ

オキシトシンは、いわゆる「幸せホルモン」の中でも「人との絆」「信頼」「リラックス」「共感」に深く関与する物質とされます。アメリカや日本国内の研究論文でも、スキンシップやポジティブなコミュニケーション、ペットとの触れ合いなど、日常のちょっとした行動でオキシトシンの分泌が促進される可能性が示唆されています。

  • スイスのKosfeldらの研究では、オキシトシンが投与された被験者が他者への信頼度を高め、投資額が約17%増えた。
  • NIHのデータでは、オキシトシンがストレスホルモン(コルチゾール)を10〜15%抑制する効果が確認された。
  • カリフォルニア大学サンフランシスコ校の調査によると、親子のスキンシップが多い家庭ではオキシトシン濃度が20%高く、子どもの不安が少ない傾向がある。

日本の研究でも、京都大学大阪大学の実験を通して、オキシトシンが共感力や社会的情報処理にかかわっていることが明らかになっています。スキンシップや優しい言葉がけによって、人は互いに安心感や愛着を育み、「自分は一人じゃないんだ」という感覚が芽生えるのです。

親子間のふれあいや「ありがとう」などの小さな声かけが、親子双方に大きな安心をもたらす瞬間があります。これがオキシトシンの力によるものだと考えると、毎日の生活がより愛おしく、かけがえのないものに思えてきますよね。

大切なのは、オキシトシンだけに頼るのではなく、他のホルモン(セロトニンドーパミンなど)とのバランスを取りながら、全体的な「幸せホルモン」を高めていくこと。生活習慣を見直し、人とのふれあいやコミュニケーションを大切にするだけでも、オキシトシンは着実に増えていきます。ぜひ、今日からささやかなスキンシップや感謝の言葉を意識的に取り入れ、オキシトシンの恩恵を実感してみてください。きっと心がほぐれて、よりポジティブで幸福感に満ちた毎日が待っています。