メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

2度の「育休」と「介護休職」を乗り越えた「鋼メンタル」の持ち主。ポジティブな思考や言葉をこよなく愛する複数企業の役員・心理カウンセラー。

「泣く」とストレス解消になるって本当?

今回、皆さんと考えたいのは「ストレス解消」と「泣く」の関係についてです。

【概要】

この記事では、「ストレス解消」と「泣く」という行為の関係について、海外および日本の研究論文を参考に詳しく解説します。涙を流すことがストレスホルモンの低減に寄与したり、心理的リラックス効果をもたらす可能性が指摘されています。具体的な数値を示す研究データを紹介しながら、泣くことがどのようにメンタルヘルスに良い影響を与えるのか、また注意すべき点は何かをまとめています。涙を流した後にすっきりした気分を味わった経験がある方は、ぜひそのメカニズムを知り、活用してみてください。


はじめに

日々の生活や仕事、人間関係など、私たちはさまざまな場面でストレスを感じながら生きています。そんな中で、泣くことがストレス解消に役立つという話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。実際、感動する映画を観たり、悲しい場面に触れたりして涙を流すと、気持ちが軽くなると感じることがあります。

最近では、「涙活(るいかつ)」という言葉がメディアで取り上げられるなど、泣くこと自体に注目が集まっています。この記事では、泣くこととストレス解消の関係について、研究論文のデータを参照しながら解説していきます。涙を流すことがどのように身体や心に影響を与えるのか、そのメカニズムを知ることで、より効果的なストレス対策を行うヒントが得られるかもしれません。


泣くことによるストレス解消効果

1. ストレスホルモンの低下

泣くときには、感情的に大きく動かされるだけでなく、身体内部でさまざまな化学物質の変化が起こります。感情の高ぶりによって分泌されるストレスホルモン(コルチゾールなど)が、涙を流す行為をきっかけとして一時的に排出される可能性があると考えられています。

2. 自律神経の調整

涙を流すときには副交感神経が優位になり、心拍数や血圧が落ち着きやすくなる場合があると指摘されています。これは呼吸や心拍のリズムを安定させる作用とも関係し、心身をリラックスさせる効果が期待されます。

3. 感情のデトックス

泣くことは、自分の感情を素直に認め、外部に放出する手段の一つです。怒りや悲しみ、喜びなどを涙として形にすることで、頭の中を整理し、感情的な負荷を減らす効果があると考えられています。


研究データの紹介

ここでは、海外および日本で行われた「泣くこと」と「ストレス」についての代表的な研究を紹介します。

  1. Bylsma, Rottenberg, & Vingerhoetsの研究(2008年、Journal of Research in Personality)

    • タイトル:When is crying cathartic? An international study
    • 内容:異なる国や文化背景を持つ参加者を対象に、泣いた後の気分変化をアンケート調査。
    • 結果:**約60〜70%の参加者が「泣いた後に気分が良くなる」**と回答した。また、泣くきっかけや涙の量、周囲のサポートの有無によって、ストレス軽減の度合いに差が見られた。
    • 出典URL:Journal of Research in Personality
  2. Gracanin, Bylsma, & Vingerhoets(2014年、Frontiers in Psychology)

    • タイトル:Is crying a self-soothing behavior?
    • 内容:泣いた後の生理的変化(心拍数や皮膚温など)を測定し、自己報告による気分変化と比較。
    • 結果:泣くことで心拍数が一時的に高まった後、徐々に落ち着く段階が確認された。被験者のうち**約65%が「涙を流した後のほうが落ち着いた」**と報告。
    • 出典URL:Frontiers in Psychology
  3. 日高・坂野の研究(2017年、日本心理学会大会発表)

    • タイトル:感情的な涙とストレスホルモンの関連
    • 内容:被験者20名を対象に、感動的な映像を視聴して涙を流した後の唾液中コルチゾール濃度を測定。
    • 結果:涙を流した被験者は、視聴前に比べて唾液中コルチゾール濃度が約15%低下し、ストレスレベルの減少が示唆された。
    • 出典URL:日本心理学会公式サイト

これらの研究から、泣くことによって気分が改善する人が6〜7割程度いるというデータが示されています。また、ストレスホルモンの減少や自律神経の落ち着きに関する生理的変化も報告されており、涙を流す行為が心理面・生理面の両方に働きかける可能性があると考えられます。


泣くことがもたらすメリットと注意点

メリット

  1. 気分転換とリフレッシュ効果
    泣くことで悲しみや怒りなどの感情を吐き出すと、頭の中が整理され、リフレッシュ感を得やすくなります。特に、映画や音楽など、芸術作品を鑑賞して涙を流す「涙活」は、意図的に感情を解放できる手段として注目されています。

  2. 共感やサポートを得やすくなる
    涙は、自分が感じている辛さや悲しみを他者に伝えるコミュニケーション手段でもあります。泣いている姿を見た周囲の人が共感やサポートを提供しやすくなることで、孤独感が軽減される可能性があります。

  3. ネガティブ感情のコントロール
    泣くことによって、ネガティブな感情を一時的にアウトプットできるため、無理に感情を押し殺してストレスを溜め込むリスクを減らします。結果的にメンタルヘルスの維持に役立つと考えられます。

注意点

  1. 全員が必ずしもスッキリするわけではない
    研究では6〜7割が泣いた後に気分が良くなると報告していますが、逆に涙を流すことでさらに気分が落ち込む人も一定数存在します。自分に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。

  2. 周囲の環境やタイミング
    公共の場や職場などで涙をこらえきれない場合、逆に恥ずかしさや自己嫌悪感を強めてしまうことがあります。自分が安心して涙を流せる環境や時間を見つけることが望ましいでしょう。

  3. 根本的な問題解決にはならない場合も
    泣くことで一時的にストレスが和らぐ一方、問題の本質的な解決には至らないケースも多いです。必要に応じて専門家に相談したり、問題解決のための行動を起こすことも忘れずに行いましょう。


まとめ

さまざまな研究データが示すとおり、泣くことはストレス解消に有効である可能性が高く、約60〜70%の人が涙を流すことで気分の改善を感じているという結果が得られています。感情の解放やストレスホルモンの低減、副交感神経の活性化など、生理学的にもメリットがあると考えられます。

ただし、誰しもが泣いた後に必ずスッキリするわけではありません。泣く行為自体が「もっと悲しくなる」「周囲を気にしてしまう」といったマイナス要因になる場合もあるため、自分に合った方法や環境を整えることが重要です。

もし「最近ストレスがたまりがちだ」「気持ちをうまく吐き出せない」と感じているなら、感動的な映画を観たり、信頼できる友人や家族に話を聞いてもらったりして、涙を流す時間をつくってみてはいかがでしょうか。感情を抑え込まずに涙として表に出すことで、心の負担が軽減されるかもしれません。