今回、皆さんと考えたいのは「食事習慣」と「メンタルヘルス」の関係についてです。
【概要】
近年の研究では、「食事習慣」と「メンタルヘルス」の間に強い関連があると指摘されています。特に、1日3回の食事(朝・昼・晩)を規則正しく摂ることが、うつ症状やストレスレベルの緩和、さらには自尊感情の維持といった観点でもプラスに働く可能性があるようです。本記事では、海外や日本の研究データをもとに、1日3食を実践することがメンタルに与える影響を解説するとともに、日常生活での具体的な取り入れ方や注意点について考えていきます。
はじめに
仕事や勉強の忙しさを理由に、食事回数が不規則になっている人は少なくありません。朝ごはんを抜いたまま出勤・登校する、夜遅い時間にまとめて大量に食べるといった習慣が続くと、肥満や生活習慣病のリスクが高まるだけでなく、メンタル面にも悪影響が及ぶ可能性が指摘されています。
実際、世界保健機関(WHO)や各国の公衆衛生機関では、「1日3食を基本とする規則正しい食生活が心身の健康維持につながる」という見解を示しており、日本でも厚生労働省が「食事を規則的に摂ることが望ましい」とする指針を出しています。特に朝食欠食(ちょうしょくけっしょく)は心理的ストレスや気分の落ち込みに関連するという研究が増えており、改めて1日3食の意義が見直されているのです。
「1日3食」の実態と背景
日本で「1日3食を食べる」習慣は江戸時代以降に普及したと言われていますが、現代においても朝・昼・晩の3回食は非常に一般的です。一方で、厚生労働省が公表した「国民健康・栄養調査(2020年)」によると、'''20~40代の約30%が週に3日以上は朝食を抜いている'''との報告があります。
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000687036.pdf
朝食を抜きがちな理由としては、「忙しくて時間がない」「朝は食欲がわかない」「ダイエット目的」などが挙げられますが、こうした食習慣が長期的に見るとメンタルヘルスに影響を与える可能性を考慮する必要があります。
海外の研究例
韓国の青年を対象とした調査(BMC Public Health, 2018)
韓国で行われた大規模な横断研究(Lee et al., 2018)では、約6万人の中高生を対象に食事習慣とメンタルヘルス(ストレスレベル、抑うつ症状、睡眠障害など)の関連を調べました。'''朝食を週に3日以上欠食している生徒は、欠食しない生徒と比べて抑うつ症状を抱えるリスクが約1.5倍高い'''と報告されています。
Lee H, Kim J, Shin A, et al. “Skipping breakfast is associated with stress, depressive symptoms, and suicidal ideation in Korean adolescents: The 2015 Korea Youth Risk Behavior Web-based Survey.” BMC Public Health 2018;18:1147.
https://bmcpublichealth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12889-018-6038-1
研究者らは、朝食を抜くことで血糖値が下がり、集中力や気分の安定に悪影響を及ぼすほか、ホルモンバランスや自律神経にも負担がかかる可能性を指摘しています。
アメリカの成人を対象とした調査(Journal of Affective Disorders, 2020)
アメリカでの成人約3万人を対象にした調査(Tang & Jing, 2020)では、週に2日以上朝食を抜く習慣のある人々は、'''日常的に朝食をとる人々に比べてうつ病リスクが約1.3倍高い'''と解析されています。特に女性においては、ホルモン変動の影響も相まってリスクがさらに高まる傾向が示唆されました。研究チームは、夜間の食事が増えることで睡眠の質が低下するメカニズムも関連していると考察しています。
日本の研究例
大学生を対象とした調査(Public Health Nutrition, 2016)
日本のある大学で行われた調査(Sakata et al., 2016)では、大学生1,500名を対象に朝食の摂取頻度と抑うつ傾向(CES-Dスコア)を比較しました。'''週に4回以上朝食をとる学生群は、欠食が多い学生群に比べて抑うつ傾向が約25%低かった'''という結果が示されています。
Sakata T, et al. “Breakfast consumption frequency and depressive symptoms in Japanese college students.” Public Health Nutr, 2016;19(5):845-850.
研究者は、朝食を含めた1日3食のリズムが整っていると、血糖値の急激な変動やホルモンバランスの乱れが起こりにくく、結果的にメンタルを安定させる一因になっている可能性を指摘しています。
中高生の食生活とメンタル(東京都調査, 2019)
東京都が実施した中高生の食生活実態調査(2019年)では、'''朝食の欠食率が20%を超える学校もある一方で、3食しっかり食べている生徒はストレス自己評価がやや低い傾向'''にあると公表されました。調査を担当した保健師は、1日3食を規則的にとることで体内リズムが整い、メンタル面の安定につながると考えられるとコメントしています。
なぜ1日3食がメンタルに影響するのか
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血糖値の安定
血糖値が急激に上がったり下がったりすると、疲労感やイライラ感が増しやすくなります。1日3回に分けて適量の食事をとることで、血糖値が極端に下がる時間帯を減らし、脳へのエネルギー供給を安定させます。 -
ホルモンバランスの調整
食事を定時に摂ると、消化管からのホルモン分泌(インスリン、グレリン、レプチンなど)もリズムが整いやすいとされます。結果的にストレスホルモン(コルチゾール)の過剰分泌を抑え、気分の落ち込みや不安を軽減する可能性があります。 -
栄養素の十分な摂取
朝食や昼食を抜いてしまうと、ビタミン・ミネラル・たんぱく質などの必須栄養素が不足しがちになります。特に脳の神経伝達物質の合成には、たんぱく質やビタミンB群、鉄分などが必要とされ、不足するとメンタル面の不調につながるリスクが高まります。 -
生活リズムの確立
1日3食を定時にとることで、睡眠や活動のサイクルが整いやすくなることが指摘されています。十分な睡眠はストレス回復に不可欠であり、睡眠不足がうつや不安障害と深く関連することが多くの研究で示唆されています。
具体的な取り入れ方と注意点
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朝食を無理なく摂る工夫
- 「朝は食欲がわかない」という人は、軽めのスープやフルーツ、ヨーグルトなど消化が良いものから始める。
- 5~10分早く起きて、余裕をもって食事時間を確保する。
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昼食をしっかりと
- 昼食抜きは午後の集中力や気分の安定に大きく響く。
- 外食やコンビニ利用が多い場合でも、野菜やたんぱく質を意識的に組み合わせる。
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夕食の時間を遅くしすぎない
- 就寝直前の大量摂取は、睡眠の質に悪影響を及ぼしやすい。
- 残業や帰宅が遅い人は、軽めの夕食+就寝前の間食を調整するなど工夫する。
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間食や飲み物にも注意
- 間食が多すぎると血糖値やカロリー摂取のバランスが崩れる場合がある。
- 甘い飲み物よりも、水やお茶などで水分補給を行うと良い。
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柔軟性を持つ
- 「どうしても3食とれない日」がある場合でも、無理に自分を追い込まず、翌日以降の食事でリカバリーする。
- 過度に厳格なルールを設けるとかえってストレスとなり、メンタルに悪影響を及ぼす可能性がある。
まとめ
1日3食を規則正しく摂ることは、'''メンタルヘルスの安定に寄与する'''という研究結果が海外・日本ともに報告されています。韓国の青年を対象とした調査(Lee et al., 2018)では、朝食欠食が多いほど抑うつリスクが約1.5倍に上昇し、アメリカの成人を対象とした研究(Tang & Jing, 2020)でも、朝食抜きの習慣がうつ病リスクを約1.3倍高める可能性が指摘されました。日本でも大学生を対象とした調査(Sakata et al., 2016)で、朝食頻度が高い群が低い群に比べ抑うつ傾向が25%ほど低いというデータが示されています。
こうした研究の背景には、食事回数が少ないと血糖値やホルモンバランスが乱れやすいこと、必要な栄養素が不足する可能性があること、そして生活リズム全体が不規則になりやすいことが挙げられます。逆に言えば、'''1日3食をきちんととることで、血糖値や睡眠リズム、栄養バランスを安定させやすくなり、結果的にストレスや抑うつを軽減する助けとなる'''可能性があると考えられます。
現代のライフスタイルでは、仕事や学業との兼ね合いで毎日必ず3食を完璧に摂るのは難しいケースもあるでしょう。無理に自分を追い込むことなく、朝食を軽めのものに切り替える、昼食をしっかり摂る、夕食は就寝2~3時間前までに済ませるなど、実践しやすい方法を見つけてみてください。食事は身体だけでなく心の健康を支える重要な要素であり、'''ほんの少しの工夫が、メンタルの安定につながる大きな一歩'''となるかもしれません。
(本記事は、Lee et al. (BMC Public Health, 2018), Tang & Jing (Journal of Affective Disorders, 2020), Sakata et al. (Public Health Nutr, 2016), 厚生労働省「国民健康・栄養調査」などを参照し、執筆しています。食事習慣とメンタルに関する具体的な悩みがある場合は、医療機関や栄養士・管理栄養士へ相談することをおすすめします。)