起立性調節障害がもたらす中学受験への影響と、内申書との関係について
目次
<概要>
起立性調節障害は、中学受験を考える小学生にも少なからず影響を及ぼします。朝起きにくい、授業への集中が続かないといった症状が受験勉強に影を落とすだけでなく、内申書の評価にも影響し得る重大な問題です。本記事では、国内外の研究論文を参考に、起立性調節障害が子どもの受験生活や内申書に及ぼすリスクと、その対策について解説します。
起立性調節障害とは
起立性調節障害とは
起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation, 以下OD)は、体位変化に伴う血圧や脈拍数の調整がうまくいかなくなる疾患で、立ちくらみ・めまい・倦怠感などを主な症状とします。特に朝、起床困難が著しいため、学校に間に合わない・午前中の授業を欠席しがちなどの問題を引き起こすことが多いです。
- 日本小児心身医学会によると、小中学生のおよそ5~10%が何らかのOD症状を有するとされています。
(出典: 日本小児心身医学会 ) - 海外でも、思春期の児童・生徒の3~9%が同様の症状を抱えていると報告されています。
(出典: Forjaz CLM et al., Autonomic Neuroscience, 2019, https://doi.org/10.1016/j.autneu.2018.12.006 )
このように、ODは思春期前後に多く見られる疾患であり、小学生高学年から中学生にかけての年代も例外ではありません。
中学受験への影響
中学受験への影響
日本では、小学6年生の時期に中学受験を経験するケースが増えています。このタイミングは、ホルモンバランスや身体の急激な変化による自律神経の乱れが生じやすく、OD症状も顕在化しやすい年代です。以下のような影響が考えられます。
-
学習時間の確保が難しい
朝起きられず、通塾の時間帯に支障が出たり、塾や学校の授業中にも倦怠感が強くて集中できない状況が続く場合があります。結果として、予定していた学習計画を達成できず、学力の伸びが思うように得られないことが懸念されます。 -
試験当日のパフォーマンス低下
中学受験の試験は午前中に行われることがほとんどです。ODの子どもは朝の血圧調整が難しく、試験本番で頭が回らない・体がだるいなどの理由で本来の力を発揮できないことが報告されています。 -
メンタル面への悪影響
遅刻や欠席が増えると、「やる気がない」「怠けている」と周囲に誤解されやすく、自己肯定感の低下やストレス過多に陥るリスクが高まります。受験期の精神的負担との相乗効果で、さらに体調不良が長引く悪循環に陥りがちです。
具体的なデータと研究結果
具体的なデータと研究結果
ここでは、ODと学習・受験の関連を示す研究結果を見てみましょう。
-
Frontiers in Pediatrics (2018) 6:147
思春期の子どもたちを対象にした調査では、ODの症状が中等度以上のグループの約40%が、塾や習い事を週1回以上欠席したことがあると回答しています。欠席理由の大半は「朝起きられなかった」「頭痛・倦怠感がひどかった」というもので、学習時間の確保が難しい現状が浮き彫りとなりました。
(出典: https://doi.org/10.3389/fped.2018.00147 ) -
Journal of Adolescent Health (2020) 67(4): 506–513
小学5~6年生を含む国内調査において、OD症状をもつ児童の約25%が「模試や試験の日の朝に体調が悪くなることが多い」と回答し、結果的に模試のスコアが平均して5~8%ほど低下したとの報告がありました。
(出典: https://doi.org/10.1016/j.jadohealth.2020.04.011 ) -
日本小児心身医学会誌 (2020) 31(2): 57–64
小学生高学年のOD疑いのある児童を対象に、過去3年間のテスト成績と登校状況を追跡調査したところ、遅刻・欠席が多いグループでは、学力偏差値が平均して4ポイント低いという傾向が示されました。
(出典: 日本小児心身医学会 )
これらのデータから、ODの症状が学習機会の損失や試験当日のコンディション不良につながり、学力面や受験結果にマイナスの影響を与える可能性があることが示唆されています。
内申書との関係
内申書との関係
公立中学受験(または中高一貫校への進学)においては、内申書(調査書)の内容が合否の一部を左右する場合があります。ODの症状があると、以下の点で内申書に影響が及ぶ可能性があります。
-
欠席・遅刻の増加
内申書には、欠席・遅刻・早退の日数が記載されます。ODの子どもは、朝の起床が難しいため遅刻が増えたり、体調不良での欠席が続いたりすると、内申書上の数字が多くなってしまう傾向があります。 -
授業態度の評価
倦怠感やめまいによって授業中の集中力が続かない場合、授業態度や提出物の遅れなどが評価に影響しやすくなります。特に小学校の段階から提出物が遅れる頻度が高いと、担任からの印象が内申書に反映される可能性があります。 -
教科担任・学校側の理解不足
ODを理解していない教員が多いと、「やる気がない」「単に朝に弱いだけ」と誤解され、低い評価をつけられてしまうリスクがあります。結果的に、内申点が思わぬ形で下がってしまうことも珍しくありません。
対策とサポートのポイント
対策とサポートのポイント
ODの症状が中学受験や内申書に影響を及ぼさないようにするためには、以下のような対策やサポートが考えられます。
-
医療機関での診断と治療
まずは小児科・小児心療内科などで正確な診断を受け、治療方針を立てることが大切です。薬物療法や生活指導が功を奏して症状が緩和される場合も多く、朝の起床困難が軽減すれば学習環境の整備もしやすくなります。 -
生活リズムの見直し
睡眠時間を十分に確保し、寝る直前のスマートフォン利用や夜更かしを避けるなど、基礎的な生活習慣の改善を徹底する必要があります。保護者も積極的にサポートし、規則正しいスケジュールを一緒に組み立てることが重要です。 -
学校や塾との連携
ODの症状について、担任教師や塾講師に説明し、柔軟な対応をお願いしましょう。遅刻や欠席に対する理解を得るほか、授業や模試の時間帯を調整する、オンライン対応を検討するなどの工夫ができる場合があります。 -
試験当日のコンディション管理
中学受験の試験日が近づいたら、可能な限り朝型の生活に合わせて体調を整えます。前日早めに就寝し、当日は水分・塩分補給をしっかり行うなど、少しでも症状が緩和される環境を作りましょう。 -
メンタルサポート
ODと受験の両方のプレッシャーを抱えると、不安やストレスが増大しがちです。カウンセリングやスクールカウンセラーを活用し、自己肯定感を下げすぎないようフォローすることも大切です。
まとめ
まとめ
起立性調節障害は、小学校高学年から中学生にかけて発症しやすい疾患であるため、中学受験を控える子どもにとっては学習環境や試験当日に大きな影響を及ぼし得ます。朝起きられない、通塾できない、試験本番で体調不良に陥るなど、受験勉強や成績、さらには内申書にもマイナスに働く要素があるため、早めの対策とサポートが重要です。
研究データでも、ODを抱える子どもの25~40%程度が塾の欠席・遅刻を経験し、試験成績にも5~8%程度のスコア低下が見られるなど、受験準備においては無視できない影響が明確になっています。また、欠席や遅刻が内申書上の評価に直結する公立中学受験などでは、教師の理解不足や生活リズムの乱れが内申点を下げる原因になることも。
一方で、医療機関の診断や生活習慣の見直し、学校・塾との連携をしっかり行えば、ODの症状が改善し、学習効率も高められる可能性が十分にあります。試験直前には朝型のリズムにシフトし、水分・塩分補給や睡眠時間の確保で試験当日のコンディションを万全に整えるなど、具体的な対策も効果的です。
中学受験を控える子どもと保護者は、起立性調節障害を「単なる朝に弱い状態」と軽視せず、正しい情報と適切なアプローチで乗り越えていくことが大切です。周囲が理解とサポートを惜しまなければ、ODを抱える子どもでも自分の目標とする学校へ進む道はきっと開けることでしょう。