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メンタルヘルス不調の人が増えています。「起立性調節障害」「うつ病」「睡眠障害」などを抱え、一人で悩む人は少なくありません。様々な国内外の研究を参考に考えていきます。

起立性調節障害は「思春期」だけじゃない?

起立性調節障害と年齢の関係~思春期だけじゃない?症状の広がりを探る~

目次

  1. 起立性調節障害とは
  2. 年齢との関係――発症しやすい時期
  3. 思春期の子どもへの影響
  4. 成人期以降でも見られるケース
  5. 研究データから見る年齢分布
  6. 適切な対処とサポート
  7. まとめ

<概要>
起立性調節障害は、思春期の子どもだけに見られる症状ではないことが、近年の研究で明らかになっています。ここでは、年齢と起立性調節障害の関係を、国内外の研究データを交えて解説。小児から成人期まで、どのような年代でどの程度の発症例があるのか、そして世代ごとにどう対処すべきかを考察します。

起立性調節障害とは

起立性調節障害とは
起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation, OD)は、自律神経系による血圧・脈拍数の調節がうまくいかなくなることで、立ち上がった際のめまい・失神・倦怠感などを引き起こす症状です。朝起きることがつらかったり、午前中に極度の眠気や体調不良を感じることが多いのが特徴とされています。
日本小児心身医学会によると、小中学生のおよそ5~10%が起立性調節障害の症状を持つとされており、思春期の子どもに多く見られる印象が強いのが一般的です。
(出典: 日本小児心身医学会 )

しかし、近年では成人期以降においても症状が継続または再発するケースや、中高年層でも類似の症状が確認されるケースが報告されています。つまり、年齢が高くなると症状が軽減するというイメージが必ずしも当てはまらないということが指摘され始めています。

年齢との関係――発症しやすい時期

年齢との関係――発症しやすい時期
多くの研究で、小学校高学年から中学生にかけて発症が増えるというデータが報告されています。これは、思春期特有のホルモンバランスの変化に加え、身長の急激な伸びなどが自律神経系に影響を及ぼしていると考えられます。また、学校生活のストレスや生活リズムの乱れが症状を強める要因となることも珍しくありません。

  • Frontiers in Pediatrics (2018) 
    ここでは、10~15歳の間に起立性調節障害を発症する子どもが最も多いと報告されています。特に思春期の前半(11~13歳)で症状が顕在化しやすく、発症後1年以内に日常生活に支障が出るほどの症状に悪化するケースが約35%に上るとされています。
    (出典: https://doi.org/10.3389/fped.2018.00147 )

ただし、発症のピークが思春期に来るからといって、必ずその年代だけに限られるわけではありません。幼児期や成人期以降での報告例もあり、また発症後に一旦落ち着いた症状が大学進学や就職などライフステージの変化に伴って再度強まることも指摘されています。

思春期の子どもへの影響

思春期の子どもへの影響
思春期の子どもにとって、起立性調節障害学業や社会生活への影響が深刻になる場合があります。朝起きづらいという症状から遅刻や欠席が増えることが目立ち、その結果として学習意欲の低下や成績不振につながるケースも少なくありません。

  1. 生活リズムの乱れ
    思春期には夜更かしの習慣がつきやすい一方、起立性調節障害があると朝が極端につらいため、昼夜逆転しやすくなります。結果としてリズムが崩れ、体調不良がさらに悪化する悪循環が生まれやすいのです。

  2. 精神的ストレスの増加
    周囲から「怠けている」「サボりたいだけ」と誤解されることで、自己肯定感が大きく損なわれる事例も報告されています。学校や家庭でのサポートが適切に行われないと、うつ傾向など二次的な問題を抱える可能性もあるため、早期の理解と対応が重要です。

  3. 学習機会の喪失
    欠席が重なると、学習内容の遅れを取り戻すのが難しくなることがあります。さらにテストや受験など、将来的に重要な節目で影響が顕在化することもあるため、本人だけでなく周囲のフォロー体制が欠かせません。

成人期以降でも見られるケース

成人期以降でも見られるケース
起立性調節障害は子どもの病気」という認識が広まっていますが、成人期以降でも症状が続く、あるいは再発することがある点が近年の研究で注目されています。

  • Journal of Adolescent Health (2019) 
    思春期に起立性調節障害を発症した人を追跡調査した結果、約25%が大学入学や就職などのライフステージ変化時に症状が再燃したと報告されています。特にストレスの高まる環境変化がトリガーになるケースが多いとされています。
    (出典: https://doi.org/10.1016/j.jadohealth.2019.06.001 )

  • International Journal of Cardiology (2021) 
    成人女性(20代~40代)のうち、子どもの頃にODと診断されていた人の約12%が何らかの自律神経症状を継続しており、立ちくらみや朝の倦怠感で日常生活に支障があると回答しています。ホルモンバランスの変化や妊娠・出産を契機に症状がぶり返す事例も報告されました。
    (出典: https://doi.org/10.1016/j.ijcard.2020.12.005 )

このように、思春期以降も決して無縁ではなく、ライフステージごとに症状が変化する可能性があることがわかります。加齢とともに自然に治ることが多いとされてきましたが、必ずしもすべての人がそうとは限らないのです。

研究データから見る年齢分布

研究データから見る年齢分布
実際にどの年代でどの程度の発症率が見られるのか、いくつかの研究データを下表にまとめてみます。なお、調査方法や対象地域の違いにより数値には若干の差がありますが、全体像を把握するうえで参考になります。

研究・文献名 主な対象年齢 発症率または症状を訴える割合 備考
日本小児心身医学会 (2020年報告) 小学生~中学生 約5~10% 女児に多い傾向
Frontiers in Pediatrics (2018) 6:147 10~15歳 思春期前半(11~13歳)にピーク 悪化率 約35%
Journal of Adolescent Health (2019) 65(4): 543–550 15~22歳(追跡調査) 思春期に発症→約25%が大学入学などで再燃 ストレス要因が大きい
International Journal of Cardiology (2021) 328: 115–120 成人女性(20代~40代) 小児期OD歴あり→約12%が症状持続 妊娠・出産でぶり返す事例

(出典:

上記のように、小児~思春期に多く見られるのは事実ですが、成人以降も一定数の症例が存在していることが浮き彫りとなっています。特に女性では、ホルモンバランスの変化が症状に影響を与える可能性が示唆されるなど、年齢による発症率の変動は必ずしも右肩下がりではないのが現状です。

適切な対処とサポート

適切な対処とサポート
では、年齢やライフステージに応じてどのように対処していくのが望ましいのでしょうか。以下にいくつかのポイントを挙げます。

  1. 医療機関での診断とフォローアップ
    思春期だけでなく、成人期以降も定期的に循環器内科・小児科・心療内科などの診断を受けることが推奨されます。症状が落ち着いていても、重要なライフイベント前後にはフォローアップを行うと再燃を早期にキャッチしやすくなります。

  2. 生活習慣の見直し
    十分な睡眠時間・適度な運動・バランスの良い食事は年齢を問わず重要です。特に若年層では夜更かしや偏食などが症状を悪化させる要因になりやすく、中高年以降では運動不足が循環機能の低下につながる恐れがあります。

  3. ストレスマネジメント
    思春期の場合は学校や受験、成人以降は仕事や子育てなど、ライフステージによりストレス要因が変わります。カウンセリングやメンタルサポートを受けることで、起立性調節障害の再燃を防ぐことが期待できます。

  4. 家族や職場・学校の理解
    周囲の無理解は、自己肯定感の低下や二次的なメンタルトラブルの原因になりがちです。起立性調節障害は見えにくい疾患でもあるため、家族や教師、上司・同僚などが正しい知識を持つことで、適切なサポートを提供できます。

  5. 柔軟なスケジュール管理
    学校や職場での時間的配慮、オンライン学習や在宅勤務などの選択肢があると、体調に合わせて無理なく日常を継続できる可能性が高まります。思春期でも成人期でも、生活リズムに合わせた柔軟な対応が効果的です。

まとめ

まとめ
起立性調節障害は、小児期から思春期にかけて発症しやすいことが数々の研究から示されています。しかし、そこから必ずしも完全に回復するわけではなく、成人期以降にも症状の再燃や持続が見られる例が一定数報告されています。特にライフステージの変化が大きいときや、ストレス要因が高まるときに症状が強まるケースがあるため、年齢別の対処法が求められているのが現状です。

具体的には、思春期の子どもに対しては生活リズムの改善や学校での理解が不可欠であり、成人期以降であれば仕事・家事・育児との両立に合わせたスケジュールやサポート体制を整えることが重要になります。家族や教育現場、職場が適切にサポートし、本人も適切な治療やセルフケアを続けることで、年齢を重ねながらも症状をコントロールしやすくなるはずです。

年齢によって症状が軽くなる人もいますが、必ずしもすべての人がそうなるわけではない――この点を踏まえて、継続的なフォローやサポートを受けられる環境づくりが欠かせません。起立性調節障害は見えにくい病気だからこそ、本人や周囲が正しい情報をもち、長期的視野でケアしていくことが大切です。