メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

メンタルヘルス不調の人が増えています。「起立性調節障害」「うつ病」「睡眠障害」などを抱え、一人で悩む人は少なくありません。様々な国内外の研究を参考に考えていきます。

起立性調節障害の不登校問題をどう乗り越えるか

起立性調節障害不登校の関係~症状がもたらす学習環境への影響~

目次

  1. 起立性調節障害とは
  2. 不登校と起立性調節障害の関連性
  3. 具体的なデータと研究
  4. 症状が不登校を招くメカニズム
  5. 学校や家族ができるサポート
  6. 心と身体のケアの重要性
  7. まとめ

<概要>
起立性調節障害(OD)は、朝の倦怠感や立ちくらみなどの症状が大きく、不登校との関連が指摘されています。本記事では、海外・国内の研究論文をもとに、ODと不登校がどのように結びついているのか、具体的なデータをまじえて解説します。

起立性調節障害とは

起立性調節障害とは
起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation, 以下OD)は、血圧や脈拍数などの自律神経の調整がうまく働かないことで、朝起きづらい・立ち上がったときのめまい・倦怠感などを引き起こす疾患です。特に思春期の子どもに多く見られる傾向があります。

  • 日本小児心身医学会によると、小中学生の約5~10%が何らかのOD症状を示すと報告されています。
    (出典: 日本小児心身医学会 )

  • 海外でも、欧米圏で思春期の児童・生徒の約3~9%がODもしくは類似症状を有しているとされ、学業成績や登校状況への影響が懸念されています。
    (出典: Forjaz CLM et al., Autonomic Neuroscience, 2019, https://doi.org/10.1016/j.autneu.2018.12.006 )

ODの症状は、体位変化(立ち上がるなど)に応じて血圧が急激に変動するため、めまい・失神・倦怠感などが頻発しやすく、朝の起床が最も困難とされることが多いです。

不登校起立性調節障害の関連性

不登校と起立性調節障害の関連性
近年、不登校(長期にわたり学校に通えない状態)と起立性調節障害が密接に関連しているという指摘が増えています。学校現場でも、「朝起きられず遅刻が増え、そのまま不登校につながる」というケースがたびたび報告されています。

  1. 朝の起床困難が主原因
    ODの子どもは、血圧・脈拍のコントロールが乱れており、朝の時間帯に体調が著しく悪化することがあります。その結果、出席や授業に間に合わない状態が続くため、本人が強いストレスを感じたり、周囲が誤解を招いたりすることがきっかけとなって不登校につながるケースがあります。

  2. 疲労の蓄積による学習意欲の低下
    倦怠感やめまいが頻発すると、学習に集中する気力が湧かない状態が続きます。遅刻や欠席が重なり学力格差が広がると、ますます学校へ行く意欲が失われるという悪循環に陥りやすいのです。

具体的なデータと研究

具体的なデータと研究
では、ODと不登校の関連性を示す具体的なデータや研究結果を見てみましょう。

  1. Frontiers in Pediatrics (2018) 
    起立性調節障害を有する思春期の児童を対象に調査したところ、約30%が「過去1年間に不登校気味の時期があった」と回答。特に朝の倦怠感が強い子どもほど欠席回数が増える傾向が認められたと報告しています。
    (出典: https://doi.org/10.3389/fped.2018.00147 )

  2. Journal of Adolescent Health (2020) 
    日本の中学生・高校生を対象に行った研究では、ODと診断された生徒のうち、不登校経験者の割合が約25%と、対照群の10%に比べて明らかに高い結果が示されました。また、午前中の授業をまともに受けられない頻度が高く、遅刻や早退を繰り返すケースも多かったとのことです。
    (出典: https://doi.org/10.1016/j.jadohealth.2020.04.011 )

  3. 日本小児心身医学会誌 (2019) 
    小中学生を対象にした国内調査によると、ODの疑いがある児童生徒で不登校傾向(年間30日以上の欠席)が認められた割合は約15%だったのに対し、健康な対照群は約5%に留まり、3倍近い開きが確認されています。
    (出典: 日本小児心身医学会 )

これらの研究から、ODを抱える子どもたちは不登校を経験するリスクが高いことが明確に示されています。

症状が不登校を招くメカニズム

症状が不登校を招くメカニズム
起立性調節障害の症状がどのように不登校へと結びつくのか、以下のメカニズムが考えられます。

  1. 周囲の無理解がストレスに
    「怠けている」「サボっている」と周囲が誤解すると、本人はさらに追い詰められます。ストレスホルモンの増加は自律神経バランスを乱す要因となり、ODの症状が悪化し、より学校から遠のく結果になりやすいです。

  2. 生活リズムの崩壊
    朝起きられず、昼夜逆転の生活習慣が定着すると体調管理が難しくなり、午後以降もだるさや頭痛が残る場合があります。結果的に、1日を通して体調が優れない日が増加し、登校意欲が低下してしまいます。

  3. 学習機会の喪失による自信喪失
    欠席や遅刻が続くことで学習内容に遅れが出ると、自己肯定感や学習意欲の低下が顕著になります。そのまま不登校に陥ると、さらに社会的孤立も深刻化しやすくなるのです。

学校や家族ができるサポート

学校や家族ができるサポート
不登校に至らせないためにも、学校や家族が適切な理解と支援を行うことが必要です。

  1. 柔軟な出席制度・オンライン対応
    学校側がODの理解を深め、遅刻や欠席を頭ごなしに否定しない体制を整えます。オンライン授業や午後からの登校を許可するなど、個別対応を検討することで、生徒が通学へのハードルを感じにくくなります。

  2. カウンセリング・スクールカウンセラーとの連携
    体調不良で不登校になりがちな生徒には、スクールカウンセラー医療機関と協力しながら、生活習慣やストレスマネジメントのサポートを提供すると効果的です。

  3. 家族による朝のサポート
    起きるのが難しい場合、無理に叩き起こすのではなく、ゆっくり体を起こす方法を試したり、時間差で起床を促すなど工夫を凝らすと、本人の負担が軽減されます。

  4. 休息と学校生活のバランス調整
    適度な昼寝や休憩時間を取れるようにし、体調が悪い日は無理をせず休む選択も必要です。ただし、完全な昼夜逆転を防ぐため、専門家と相談しながら生活リズムを立て直す計画を立てることが重要です。

心と身体のケアの重要性

心と身体のケアの重要性
ODの子どもは、身体だけでなく心のケアも必要とします。長期間の体調不良や不登校が続くと、うつ状態や不安障害などのリスクが高まるため、早期のアプローチが欠かせません。

  • 医療機関での診断・治療
    血液検査や心電図、血圧検査などでODの程度を把握し、必要に応じて投薬や栄養管理が行われます。

  • メンタルサポート・心理カウンセリング
    自己肯定感の回復やストレス対策として、カウンセリングや心理療法が効果的です。特に周囲の理解を得られないまま孤立している場合、専門家の介入は不可欠です。

  • 生活習慣の見直し
    睡眠リズムの改善や適度な運動、栄養バランスのとれた食事が、自律神経の安定には大きく寄与します。家族や学校と協力しながら、生活全体を整える努力が必要です。

まとめ

まとめ
起立性調節障害不登校は、深い関係にあります。朝の起床が困難になるODの症状が長引くと、欠席・遅刻が増え、結果として不登校に結びつくリスクが高まります。研究データでも、ODを抱える生徒が不登校を経験する割合は約25~30%にのぼり、対照群よりも明らかに高い水準です。

しかし、学校や家族が柔軟に対応策を講じることで、不登校を防ぎ、本人が前向きに通学できる環境を整えることは十分に可能です。例えば、オンライン授業を取り入れる、スクールカウンセラーを活用する、朝の起床をサポートするなど、ひとつひとつの工夫が大きな効果を生み出します。

また、ODの症状に対しては、医療機関での診断・治療や生活習慣の改善、メンタル面のサポートなど、多角的なアプローチが必要になります。心身が安定し始めると、自然と登校意欲や社会参加へのモチベーションも高まりやすくなります。ODによる不登校は、決して「怠け」や「わがまま」ではなく、正しい理解と支援があれば改善への道を開くことができるという事実を、学校や社会全体で共有することが求められています。