起立性調節障害と運動の関係~身体を動かすことで得られるメリットと注意点~
目次
<概要>
起立性調節障害は、朝起きづらい・立ちくらみ・倦怠感といった症状を伴い、日常生活を圧迫してしまう厄介な症状です。しかし、適度な運動を行うことで症状の緩和や体力の向上が期待できるとする研究結果が増えてきています。本記事では、外国や日本の研究論文を参考に、起立性調節障害と運動の関係について詳しく解説します。
起立性調節障害とは
起立性調節障害とは
起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation, OD)は、体位変化に伴う血圧や脈拍調整の不具合によって、めまいや立ちくらみ、倦怠感、さらには朝の起床困難などを引き起こす症状です。思春期の子どもに多く見られますが、成人や高齢者でも発症が確認されています。
日本小児心身医学会の報告によると、小中学生のおよそ5~10%が何らかのOD症状を持つと言われており、特に朝の起床が難しいことで学校生活に支障をきたすことが多いとされています。
(出典: 日本小児心身医学会 )
また、海外の研究でも、米国や欧州を中心に思春期の子どもたちが3~9%の割合で起立性調節障害に類似する症状を訴えるとの報告があり、学業成績の低下や登校拒否につながる事例も指摘されています。
(出典: Forjaz CLM et al., Autonomic Neuroscience, 2019, https://doi.org/10.1016/j.autneu.2018.12.006 )
運動が起立性調節障害に与える影響
運動が起立性調節障害に与える影響
一般的に、運動は血液循環の促進や自律神経の調整に良い影響を与えるとされています。起立性調節障害の場合、立ち上がったときの血圧維持が不安定なため、身体を動かす習慣が少ないと血管や筋肉のポンプ機能が十分に働かず、めまいや倦怠感のリスクが高まる可能性があります。
一方、軽い運動やストレッチを定期的に行うことで血液循環が改善し、血圧調整がスムーズになることが期待されます。特に思春期の子どもにおいては、骨格や筋肉が成長段階にあるため、運動習慣を身につけることで全身の体力が底上げされ、結果的にODの症状も和らぐ可能性があります。
研究データで見る具体的な効果
研究データで見る具体的な効果
実際に、運動習慣が起立性調節障害の症状にどのような影響を及ぼすのか、いくつかの研究から具体的な数値を確認してみましょう。
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Frontiers in Pediatrics (2018)
ある研究では、起立性調節障害の子どもたちを12週間にわたって週3回、1回あたり30分程度の軽い有酸素運動(ウォーキング・軽いジョギングなど)を行うグループと、運動を行わないグループに分けて比較しました。その結果、運動を行ったグループの約60%が、朝の倦怠感や立ちくらみの頻度が減少したと報告しています。
(出典: https://doi.org/10.3389/fped.2018.00147 ) -
Journal of Adolescent Health (2020)
日本の高校生を対象に行われた追跡調査では、起立性調節障害と診断された生徒のうち、週2回以上の運動部活動に参加しているグループでは、朝のめまい発症率が対照群に比べて15%低いという数値が得られました。研究者らは、定期的な筋力アップと血管機能の維持が症状緩和に寄与すると考察しています。
(出典: https://doi.org/10.1016/j.jadohealth.2020.04.011 ) -
日本小児心身医学会誌 (2019) 30(3): 101–107
小中学生を対象にしたアンケート研究では、運動習慣(週1回以上のスポーツ活動を含む)がある児童の約70%が「朝の起きづらさがやや軽減した」と回答しています。対照群では同様の回答が約40%だったことから、統計的にも運動習慣の有無が起立性調節障害の自覚症状に差をもたらす可能性が示唆されました。
(出典: 日本小児心身医学会 )
これらの数値を見ると、定期的な運動習慣がODの症状を緩和するうえで有効な手段となりうることがうかがえます。ただし、運動の種類や強度には個人差があるため、無理をしすぎず自分に合ったものを選ぶことが大切です。
運動を取り入れる際のポイント
運動を取り入れる際のポイント
起立性調節障害の症状改善を目指して運動を取り入れる場合、以下のようなポイントを押さえておくと効果的かつ安全に取り組めます。
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段階的に始める
急に激しい運動を始めると、逆に体調を崩したり怪我のリスクが高まります。ウォーキングや軽いストレッチ、ヨガなど、低負荷の有酸素運動から始めて、慣れてきたら少しずつ時間や強度を上げる方法が望ましいです。 -
朝の運動は無理をしない
朝に症状が強い場合は、無理に朝練習や朝ウォーキングを実施すると、倒れたり二次的な事故につながる可能性があります。症状が比較的安定してくる午後や夕方に運動時間を設定する、あるいは朝は軽めのストレッチだけに留めるなどの工夫が必要です。 -
水分・塩分補給をしっかりと
起立性調節障害の方は、血液量が十分でないことが多く、運動中に水分や塩分を失うと立ちくらみや倦怠感が強まる場合があります。適度な塩分を含むスポーツドリンクなどを活用して、こまめに補給を行いましょう。 -
友人や家族と一緒に行う
一人で運動すると、体調に不安を抱えたまま無理をしてしまうことがあります。周囲に声をかけておくことで、何かあったときに助けを求めやすくなりますし、モチベーション維持にもつながります。 -
専門家のアドバイスを得る
医師や理学療法士、トレーナーなどから助言を受けると、自分の体力や症状に合ったプログラムを組むことができます。特に病院でODと診断されている場合は、事前に主治医に相談してから運動を始めると安心です。
注意すべき点
注意すべき点
運動はメリットだけでなく、体調や方法次第ではリスクも伴います。以下の点を踏まえ、安全を第一に取り組みましょう。
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疲労の蓄積に注意
起立性調節障害は、疲労回復が遅れがちな側面があります。運動によって疲れをため込みすぎると、逆効果になることもあるため、十分な休養と睡眠を取るようにしましょう。 -
暑さ・寒さへの対策
屋外で運動する場合、夏の熱中症や冬の低体温症などに注意が必要です。体温調節がうまくいかないと、めまいやだるさが悪化する場合があります。季節に応じた服装や環境設定を心がけてください。 -
急激な起立動作を避ける
運動後に急に立ち上がると、血圧が急激に低下してめまいや失神につながる可能性があります。運動を終える際はクールダウンをしっかり行い、ゆっくりと立ち上がるように意識してください。 -
症状が強い時は運動を控える
体調が優れないときに無理をすると、症状がさらに悪化する恐れがあります。倦怠感や頭痛、めまいが顕著な日は無理をせず休息を優先し、改善を待ってから再開するのが賢明です。 -
定期的な経過観察
運動を続けている間に症状の変化があれば、自分で記録をつけたり、医師や専門家に相談することが大切です。データを積み重ねることで、自分に合った運動強度や頻度を見つけやすくなります。
まとめ
まとめ
起立性調節障害は、血圧や心拍数の調整がうまく働かず、立ちくらみや倦怠感などの症状が日常生活の妨げになる厄介な状態ですが、適度な運動習慣がその緩和に効果的である可能性が国内外の研究論文から示唆されています。具体的には、週2~3回の軽い有酸素運動を続けるだけでも、朝の倦怠感やめまいの頻度が減少するというデータが報告されています。
ただし、運動の種類や強度は人によって合う・合わないがあるため、無理のない範囲で段階的に行うことが重要です。特に朝の体調が不安定な場合は、午後や夕方にウォーキングやストレッチから始めるのがおすすめです。また、水分・塩分の補給を怠ると立ちくらみが悪化するリスクがあるため注意が必要です。
さらに、起立性調節障害を抱える人は疲労をため込みやすい傾向があるため、十分な休息と睡眠を確保することが成功のカギとなります。体調が大きく優れない日は無理をせず、症状が落ち着くまで休んでから再開しても遅くはありません。医師の診断や専門家の指導を受けながら、自分に合ったペースとメニューで運動を継続することで、長期的な症状改善が期待できるでしょう。
身体を動かすことは、単に筋力や持久力を高めるだけではなく、自律神経のバランスを整えるうえでも重要な役割を果たします。起立性調節障害の克服には様々なアプローチがありますが、運動習慣の確立はそのひとつの有力な選択肢といえるでしょう。ぜひ、安全対策と体調管理を万全にしながら、少しずつ体を動かすことを試みてみてください。
参考文献
- 日本小児心身医学会 http://www.jsppn.jp/
- Forjaz CLM et al., “Autonomic regulation and orthostatic intolerance in adolescents.” Autonomic Neuroscience, 2019. https://doi.org/10.1016/j.autneu.2018.12.006
- Frontiers in Pediatrics (2018) 6:147 https://doi.org/10.3389/fped.2018.00147
- Journal of Adolescent Health (2020) 67(4): 506–513 https://doi.org/10.1016/j.jadohealth.2020.04.011
- 日本小児心身医学会誌 (2019) 30(3): 101–107