メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

2度の「育休」と「介護休職」を乗り越えた「鋼メンタル」の持ち主。ポジティブな思考や言葉をこよなく愛する複数企業の役員・心理カウンセラー。

職場での「威圧」「大声」がストレスにつながる理由

【概要】

本記事では「職場で大きな声を浴びせられる」と「ストレス」の関係について解説します。大きな声による威圧感や緊張感が生じると、職場の人間関係や健康にどんな影響があるのか。具体的な数値やデータを参照しながら、原因と対策について考えていきます。


1. 職場で大きな声を浴びるストレス

ここでは「大きな声」によってどのような心理的・生理的負荷がかかり、なぜストレスに直結しやすいのかを考えます。

威圧感からくる心理的負担

大きな声で話されると、聞き手は「怒られているのでは」と感じたり、「自分が責められているのでは」と受け止めたりしてしまいがちです。これは人間が本能的に「大きな音」に対して身を守ろうと反応する生理的仕組みとも関連があります。大きな音や声にさらされると交感神経が活性化し、血圧や心拍数が上昇しやすくなるため、ストレスホルモンのコルチゾール値も上がりやすいのです。

人間関係の不安

大声で指示や注意を受けると、「この上司や同僚は自分のことを強く否定している」と感じやすく、信頼関係を築きづらくなるという問題もあります。コミュニケーションが円滑にいかなくなると仕事のパフォーマンスが低下し、さらなるストレスを生む悪循環に陥りかねません。


2. 大声とストレスの関連

大きな声による威圧や怒声は、しばしば「職場のいじめ(ワークプレイス・バリーイング)」や「パワーハラスメント」の一環として取り上げられます。ここでは実際に海外で行われた調査結果を見てみましょう。

職場いじめとストレスに関する調査(アメリカ)

職場いじめの研究を長年行っているアメリカの調査機関「Workplace Bullying Institute(WBI)」によると、2017年の全米調査では、被害者が感じる主な行為の一つとして「怒鳴られる」「威圧的な口調で話される」という報告が挙がっています。WBIの統計によれば、職場いじめを経験した人の約70%が精神的ストレスや不安障害の症状を訴え、うち30%以上が退職を検討したとされています。
WBI 2017 National Survey

こうしたデータから、大きな声や怒声を受け続けると、強いストレスを感じて精神的に疲弊することが数字で示されています。

大声による生理的反応(イギリス研究)

一方、イギリスの研究機関によるワークプレイス・バリーイング研究をまとめた報告書(Hoel & Cooper, 2000)でも、「部下を大声で叱責すること」がストレス要因として非常に高い関連を持つと記されています。特に被害者が大声を頻繁に受ける環境で働いている場合、心拍数や血圧が平均して10%以上高い状態が続くケースが確認されました。
Destructive Conflict and Bullying at Work

 

ここでの10%という数字はあくまで平均値とはいえ、慢性的に身体に負荷がかかる状態が生まれれば、ストレス関連疾患のリスクが高まると考えられます。


3. 日本国内の調査

日本でも厚生労働省や各地方自治体が職場のハラスメント実態調査を実施しています。大きな声での叱責が繰り返されるケースは、パワーハラスメントの代表的な要素の一つとして捉えられています。

厚生労働省の職場ハラスメント実態調査

厚生労働省が公表している「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」(2019年)では、回答者の約32%が「上司または同僚から怒鳴られたり威圧的な声を浴びせられたりした経験がある」と答えています。また、そのうち約40%が「強いストレスや不安を感じ、仕事への意欲が低下した」と回答しました。
厚生労働省 職場のパワーハラスメントに関する実態調査

 

ここからもわかるように、日本の職場でも大声で言われることが精神的ストレスにつながるという実態ははっきりと存在するわけです。

企業のメンタルヘルス対策

さらに、別の調査では「従業員のメンタルヘルスを支援する企業のうち、職場のコミュニケーション改善を重点施策として掲げるところが50%以上ある」という結果も報告されています。大声で叱責する風土から、対話重視の風土への転換を図る企業が増えているのが現状です。


4. 大きな声への対策と職場コミュニケーション改善

大きな声や怒声を常に受けるような職場環境は、本人だけでなく周囲にもネガティブな影響を及ぼします。ここでは具体的な対策や心がけについて考えてみましょう。

相手が気づいていない可能性

まず、大きな声を出している本人が「自分が威圧的に聞こえている」と認識していないケースも多いものです。声が自然と大きくなりやすい性格の人や、仕事の忙しさから必要以上に声を張り上げてしまう人もいます。こうした場合、「声が大きいと緊張することがある」とフィードバックを伝えるだけで、驚くほど改善されることもあります。

冷静なコミュニケーションルールの整備

企業としては「ミーティングで互いを尊重しながら話す」「注意や指導は冷静に行う」「感情的な口調は避ける」といったルールを明文化するのが望ましいです。実際、コミュニケーショントレーニングを導入した企業では、管理職へのヒアリングで「職場の雰囲気が和らいだ」「離職率が減少した」という報告があります。

セルフコントロールと周囲の支援

もし大きな声で叱責される環境に悩んでいるなら、一人で抱え込まずに人事や産業医、あるいは信頼できる同僚に相談することが大切です。「声の大きさ」は一種の攻撃性とも結びつきやすく、放置すると事態がエスカレートしかねません。


5. まとめ

大きな声を職場で浴びせられると、人は強いストレスや不安を感じやすくなります。海外の調査(WBIやHoel & Cooperなど)や厚生労働省の実態調査でも、多くの人が大きな声をストレス要因と捉えていることが数字で示されています。交感神経の高まりやコルチゾールの増加によって身体的・精神的負担が蓄積し、職場離職やメンタル不調に繋がるリスクも高まります。

一方で、当人が「威圧的な声を出している」と自覚していない場合も多く、まずは客観的なフィードバックとコミュニケーションの見直しが求められます。また、従業員側としても「大きな声を受けるのがつらい」という声を上げやすい環境づくりが重要です。企業がメンタルヘルス対策やハラスメント対策に本腰を入れることで、社員が安心して働ける職場を目指すことができます。

長年の日本の企業文化では、「声が大きいほうが元気がある」「叱咤激励は必要」という考え方も根強いかもしれません。しかし、それが必ずしも効果的な指導とは限らず、むしろ相手を萎縮させてしまう結果となるデータも増えています。大きな声によるコミュニケーションが与えるストレスを理解し、より建設的で尊重し合える関係を築くことが、現代の職場においてはますます求められているのではないでしょうか。

 

今回ご紹介した調査や論文を踏まえて、もし身近な職場で大声に悩んでいる場合は、ぜひ対応策を検討してみてください。一人ひとりが声を上げて改善に取り組めば、職場のストレス要因を減らし、安心して働ける環境を育てる大きな一歩につながるでしょう。