メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

2度の「育休」と「介護休職」を乗り越えた「鋼メンタル」の持ち主。ポジティブな思考や言葉をこよなく愛する複数企業の役員・心理カウンセラー。

「自律神経の乱れ」 飲酒も悪影響なの?

今回、皆さんと考えたいのは「自律神経」と「アルコール」の関係についてです。

 

【概要】

この記事では、「自律神経」と「アルコール」の関係について、海外および日本の研究論文を参考に詳しく解説します。アルコールが自律神経を介して心拍数や血圧、ストレス反応などにどのような影響を及ぼすのか、具体的な数値や研究データを交えながら紹介します。さらに、アルコールと上手に付き合うための実践的なポイントもまとめています。お酒を楽しみつつ、健康的な生活を維持したい方にとって参考になる情報を提供できれば幸いです。


はじめに

私たちの体の機能を無意識のうちに調整している「自律神経」は、日々の生活習慣やストレス、摂取する飲食物によって大きく影響を受けます。なかでもアルコールは、多くの人が嗜好品として楽しむ一方で、自律神経系に対してさまざまな作用をもたらすことが知られています。

一時的にリラックス効果を感じられるお酒ですが、飲み方や量によっては心拍変動や血圧変動、睡眠の質に影響を及ぼす可能性があります。ここでは、研究データを通じてアルコール摂取がもたらす自律神経への影響を紐解き、上手な付き合い方を考えていきましょう。


自律神経の基本的な仕組み

自律神経は大きく分けて「交感神経」と「副交感神経」から成り、体内の環境を一定に保つために働いています。

  • 交感神経:活動時やストレス時に優位になり、心拍数や血圧を上昇させる。
  • 副交感神経:休息やリラックス時に優位になり、心拍数や血圧を低下させる。

私たちは活動時と休息時を切り替えながら生活しており、それを支えているのが自律神経です。アルコールの摂取は、飲み始めは副交感神経をやや高める場合がある一方で、一定量を超えると交感神経を刺激し、血圧上昇や心拍数の増加を引き起こすことも報告されています。


アルコールが自律神経に及ぼす影響

アルコールは神経系に対する作用が大きく、特に中枢神経系だけでなく、自律神経系(末梢神経系)にも影響を与えます。

  1. 急性影響
    飲酒直後は血管拡張作用や筋肉の弛緩作用によって「ほろ酔い」状態になり、副交感神経が優位に働きやすくなることもあります。しかし、短時間のうちに過度の飲酒をすると交感神経の亢進が起こり、心拍数の急上昇や発汗、血圧上昇が見られるケースがあります。

  2. 慢性的影響
    長期的かつ大量の飲酒習慣が続くと、自律神経系のバランスが乱れやすくなり、交感神経の活動が過剰な状態で固定化する恐れがあります。その結果、高血圧や不整脈睡眠障害などのリスクが高まることが指摘されています。

  3. 心拍変動(HRV)への作用
    自律神経の機能を測る指標として用いられる心拍変動(Heart Rate Variability: HRV)が、アルコールの摂取量や習慣と関連して変化する報告が増えています。HRVが低下する(心拍の揺らぎが小さくなる)ということは、交感神経と副交感神経の調節力が低下している可能性を示唆します。


研究データの紹介

ここでは、海外の主な研究論文におけるアルコールと自律神経の関係を示すデータを紹介します。

  1. NIAAA(米国国立アルコール乱用・依存症研究所)の報告(2021年)

    • NIAAAは、過度のアルコール摂取が自律神経障害の発生リスクを高めることを警告しています。
    • 慢性の大量飲酒者では、約20~30%が自律神経障害に関連する症状(頻脈、不整脈、起立性低血圧など)を経験すると報告されています。
    • 出典URL:NIAAA公式サイト
  2. Pumprlaらの研究(2002年、International Journal of Cardiology)

    • タイトル:Functional assessment of heart rate variability: physiological basis and practical applications
    • 心拍変動(HRV)を指標とした調査で、'''飲酒量が増えるほどHRVが低下する傾向'''にあると報告されています。特に慢性的な飲酒習慣では、副交感神経機能の低下が顕著となり、交感神経優位の状態が続きやすいとされています。
    • 出典URL:International Journal of Cardiology
  3. Koob & Volkowの研究(2010年、Neuropsychopharmacology)

    • タイトル:Neurocircuitry of addiction: Neuropsychopharmacology, 35(1), 217–238
    • この研究ではアルコールを含む依存性物質が脳内の報酬系だけでなく、自律神経を介したストレス反応にも深く関与していると論じられています。過度の飲酒により、ストレス時に交感神経が過剰に反応する「ストレス脆弱性」を招く恐れが示唆されています。
    • 出典URL:Neuropsychopharmacology公式サイト

日本国内の研究例

続いて、日本国内の研究でも、アルコールと自律神経の関係を示す報告がいくつかあります。

  1. 酒井健一:「アルコールと自律神経機能」(2009年、日本アルコール・薬物医学会雑誌 44(1), 66-71)

    • この総説では、急性アルコール摂取による交感神経亢進や、翌日以降まで持続する心拍変動の抑制が起こり得ることが指摘されています。
    • 特に、不整脈や突発的な血圧上昇などのリスクが高まるケースがあるとし、'''適量を超えた飲酒が自律神経失調を引き起こす可能性'''に警鐘を鳴らしています。
  2. 厚生労働省 e-ヘルスネット:「アルコールと健康」(2023年)

    • 飲酒量が増えるほど、高血圧や心筋症など循環器系リスクが上昇する旨が解説されています。
    • 自律神経を介した血圧調節機能の乱れも、アルコール摂取による循環器障害の一因となるとしています。
    • 出典URL:厚生労働省 e-ヘルスネット

アルコールと上手に付き合うポイント

アルコールが自律神経に与える影響を踏まえると、以下のような点を意識して上手にお酒と付き合うことが大切です。

  1. 適量を守る
    世界保健機関(WHO)では、純アルコール換算で1日平均20g程度以下を推奨するなど、各種機関が適量ガイドラインを提示しています。日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本程度が目安とされます。

  2. 休肝日を作る
    毎日飲むことが習慣化すると、自律神経や肝臓への負担が高まります。週に1~2日は休肝日を設けるなど、連続飲酒を避ける工夫が重要です。

  3. 睡眠とのバランスを考える
    アルコールは入眠を助ける反面、深い睡眠(ノンレム睡眠)を妨げたり、夜中に交感神経が過度に働きやすくなる場合があります。就寝直前の飲酒は避け、適度な時間を空けるようにしましょう。

  4. ストレス発散をお酒に頼りすぎない
    飲酒により一時的にリラックスできても、ストレスの根本解消には繋がりません。適度な運動や趣味の時間を持つなど、ほかの方法でストレスケアを行うと、自律神経への負担が減らせます。

  5. 体調変化に敏感になる
    飲酒後に寝起きが悪かったり、心拍が早い・不整脈を感じるようであれば、一度飲酒量を見直してみることをおすすめします。


まとめ

アルコールは私たちの気分や行動に大きく影響を与えるだけでなく、'''自律神経系にも複雑な作用を及ぼす'''ことが研究データから明らかになっています。適度な飲酒はリラックス効果につながる場合もありますが、過度の飲酒や連続飲酒は、交感神経を過度に刺激し、血圧上昇や心拍変動の低下といったリスクを高める要因になるのです。

NIAAAや各種研究論文、日本国内の厚生労働省の資料などを見ても、'''適量を超えた飲酒は自律神経のバランスを崩し、循環器系疾患や睡眠障害などを引き起こす'''可能性が示唆されています。アルコールとの付き合い方次第で、健康を大きく損ねるリスクを増やしてしまうことは否定できません。

その一方で、完全にお酒を断たなくても、適量と上手な飲み方を守ることで、ストレスケアや食事の楽しみとしてアルコールを取り入れることも十分に可能です。休肝日を設ける、睡眠前の飲酒量を控える、体調の変化をこまめにチェックするなどの工夫が、自律神経と向き合う上で重要です。

日々の生活を見直しながら、お酒を楽しむ習慣をより健康的なものにしていきましょう。