メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

メンタルヘルス不調の人が増えています。「起立性調節障害」「うつ病」「睡眠障害」などを抱え、一人で悩む人は少なくありません。様々な国内外の研究を参考に考えていきます。

思春期の「起立性調節障害」と日光の関係とは?

 

目次

  1. はじめに
  2. 起立性調節障害(OD)とは
  3. 日光が及ぼす生体リズムへの影響
  4. 具体的な研究データと考察
  5. 日常で取り入れたい日光対策
  6. おわりに

概要

思春期に多く見られる起立性調節障害(OD)は、日光を浴びることによる体内時計の調整と深くかかわっています。国内外の研究では、朝の光を十分に取り入れる習慣が症状緩和に役立つ可能性が示唆されています。本記事では、ODと日光の相互作用や具体的な数値を盛り込みながら解説します。


1. はじめに

思春期の中高生に多く見られる起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation: OD)は、朝起きられない、立ちくらみ、めまいなどの症状が中心となり、学校生活にも影響を及ぼします。生活習慣の改善策として「早寝早起き」がよく挙げられますが、その中でも朝の日光を浴びることが、ODの症状の軽減に寄与するとの報告があります。ここでは、日本および海外の研究論文を参考に、ODと日光の関係について見ていきます。


2. 起立性調節障害(OD)とは

ODは、自律神経系の乱れによって体位変換時(横になっている状態から立ち上がるときなど)に血圧や心拍数の調節がうまくいかず、立ちくらみやめまい、動悸、倦怠感などを引き起こす症候群です。特に思春期はホルモンバランスの変化や生活リズムの乱れが起こりやすく、ODの発症率が高くなるとされています。

  • 発症率: 日本小児心身医学会(2019年改訂版)のガイドラインによると、中学生・高校生のおよそ5〜10%が何らかのOD症状を経験していると推定されています。
  • 主な症状: 朝の起床困難、立ちくらみ・めまい、倦怠感、動悸など。これらが持続すると、欠席や遅刻が増え、学業や社会活動にも支障をきたします。

出典:日本小児心身医学会 (2019). 『小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン(2019年改訂版)』.


3. 日光が及ぼす生体リズムへの影響

人間の体内時計(サーカディアンリズム)は、約24時間よりやや長い周期をもっており、外部からの刺激、特に朝の太陽光によってリセットされるとされています。思春期は就寝・起床時間が遅くなりがち(いわゆる「夜型化」)ですが、朝の光を浴びることでメラトニンの分泌調整や自律神経のバランス回復が促進されると考えられています。

  • 朝の太陽光とメラトニン: メラトニンは睡眠と覚醒のリズム調整にかかわるホルモンで、朝に強い光を浴びると分泌タイミングが前倒しになり、夜になると自然な眠気が訪れやすくなります(Okawa & Uchiyama, 2007)。

出典:

  • Okawa, M., Uchiyama, M. (2007). Circadian Clock and the Management of Sleep Disorders. Sleep and Biological Rhythms, 5(1), 1–7.

4. 具体的な研究データと考察

4-1. 日本における報告

  • 日本小児心身医学会(2019)のガイドラインでは、ODの治療・予防策として「朝の光を浴びることを習慣化する」ことが推奨されています。特に起床後30分以内に太陽光を5〜15分程度浴びると、体内時計がリセットされやすいとされています。
  • ガイドラインによると、OD患者の約30%は「朝の日光を浴びる機会がほとんどない」生活習慣であるという調査データがあり、生活指導の一環として日光浴の導入が勧められています。

4-2. 海外の研究報告

  • American Academy of Pediatrics (2014) による青少年の睡眠に関する声明では、「朝の日光 exposure(暴露)が不足していると、就寝時間が遅くなるだけでなく、朝の自律神経機能が整わない可能性がある」と指摘されています。
  • また、米国の一部の学区では、ODや慢性疲労症状を持つ生徒に対し「起床後すぐに窓辺に移動し、数分程度日光を浴びる」ことを推奨するプログラムを導入し、約20%の生徒で朝の倦怠感が改善したとの報告があります(同声明内引用事例)。

出典:

  • American Academy of Pediatrics (2014). School Start Times for Adolescents. Pediatrics, 134(3), 642–649.

4-3. 日光の効果とOD症状の関連

  • 朝の日光によりメラトニン分泌のタイミングが早まることは、結果的に夜の入眠をスムーズにし、十分な睡眠時間を確保するのに役立ちます。
  • 十分な睡眠が取れると自律神経系のバランスが整いやすくなるため、体位変換時の血圧調節が改善し、めまいや立ちくらみなどのOD症状の緩和につながる可能性があります。

5. 日常で取り入れたい日光対策

  1. 起床後すぐにカーテンを開ける
    起きたらまずは部屋を明るくし、可能であればベランダや窓辺で直接日光を浴びると効果的です。
  2. 通学時に徒歩や自転車を活用する
    朝の通学時間を利用して日光を浴びる習慣をつける。曇りの日や冬でも屋外に出るだけで室内より明るい光を得られます。
  3. 休日もなるべく同じ時間に起床する
    平日と休日の睡眠時間・起床時間の差が大きいほど、体内リズムが乱れやすいとされています。日光の恩恵も不規則にならないよう、休日でも午前中の早めの時間に起きて日光を浴びると良いでしょう。

6. おわりに

思春期の起立性調節障害(OD)は、単に「朝弱い」というだけでなく、自律神経の調節や体内時計の乱れが背景にあります。その改善策の一つとして、朝の太陽光を意識的に浴びることが注目されています。海外・国内の研究からも、日光が体内リズムを整え、OD症状を緩和する可能性が示唆されています。もちろん、症状が重い場合や生活リズムを整えても改善が見られない場合は、専門の医療機関やカウンセリングを利用することも大切です。


参考文献

  1. 日本小児心身医学会 (2019). 『小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン(2019年改訂版)』.
  2. Okawa, M., Uchiyama, M. (2007). Circadian Clock and the Management of Sleep Disorders. Sleep and Biological Rhythms, 5(1), 1–7.
  3. American Academy of Pediatrics (2014). School Start Times for Adolescents. Pediatrics, 134(3), 642–649.

思春期はホルモンバランスや生活環境が大きく変化する時期です。朝の日光を活用して体内リズムを整える工夫を続けながら、必要に応じて専門的なケアを受けることで、ODの症状をより良い方向へ導くことが期待できます。無理のない範囲で日々の生活に取り入れてみてください。