メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

メンタルヘルス不調の人が増えています。「起立性調節障害」「うつ病」「睡眠障害」などを抱え、一人で悩む人は少なくありません。様々な国内外の研究を参考に考えていきます。

思春期の「起立性調節障害」と糖分の関係とは?

 

目次

  1. はじめに
  2. 起立性調節障害(OD)とは?
  3. 思春期における糖分摂取の現状
  4. 糖分摂取とODの関連
  5. 研究データと具体的な数値
  6. おわりに
  7. 参考文献

概要

思春期に多く見られる起立性調節障害(OD)は、朝の起床困難や立ちくらみが起こる自律神経の不調です。本記事では、糖分摂取との関係性を海外および国内の研究論文をもとに考察し、具体的なデータや数値を示しながら解説します。


1. はじめに

思春期の中学生・高校生に多く見られる起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation: OD)は、朝起きられない、立ちくらみ、めまいといった症状を特徴とします。学校生活や日常活動に支障をきたすこともあり、保護者や医療・教育関係者の間で大きな関心事となっています。
一方、近年の食生活の変化に伴い、糖分(砂糖や果糖など)の過剰摂取が健康へ及ぼす影響が注目されています。本記事では、思春期のODと糖分摂取との関連について、国内外の研究論文やガイドラインを参考に解説します。

2. 起立性調節障害(OD)とは?

ODは、横になっている状態から立ち上がった際に十分な血圧維持ができず、めまいや動悸を引き起こす自律神経系の不調です。思春期は身体的・精神的に大きく変化する時期であり、自律神経のバランスが崩れやすいため、ODを発症・悪化させるリスクが高いとされています。

  • 日本小児心身医学会『小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン』(2019年改訂版)によると、中高生の約5〜10%が何らかのOD症状を経験していると報告されています。

3. 思春期における糖分摂取の現状

思春期の若年層では、清涼飲料水や菓子類など、糖分を多く含む食品を頻繁に摂取する傾向が指摘されています。WHO(世界保健機関)は2015年に「1日の総エネルギー摂取量に占める糖分(遊離糖)の割合を10%未満、可能であれば5%未満に抑えること」を推奨するガイドラインを公表しています
(World Health Organization, 2015. Guideline: Sugars Intake for Adults and Children)。

日本でも、厚生労働省の国民健康・栄養調査などで若年層の菓子類・清涼飲料水の摂取量が増加していることがわかっています。これにより、糖分過剰摂取による生活習慣病リスクだけでなく、血糖値変動と自律神経機能への影響が懸念されています。

4. 糖分摂取とODの関連

糖分を多く含む食事や飲料を摂ると、短時間で血糖値が急上昇し、インスリンの大量分泌が起こることがあります。その後、血糖値が急激に下がる際に以下のようなことが指摘されています。

  • 自律神経の乱れ: 血糖値の急激な変動は交感神経と副交感神経のバランスを乱す。
  • 血圧維持の不安定化: インスリン分泌と同時に血管拡張や体液量の変化が生じ、立ち上がった際の血圧調節が難しくなる可能性。

これらの要因によって、もともと起立性調節が不安定になりやすいOD患者にとって、糖分の過剰摂取はさらなる症状悪化のトリガーとなりうると考えられています。

5. 研究データと具体的な数値

海外の研究例

  • Zafar et al. (2018). Clinical Autonomic Research, 28(3), 211–217
    この研究では、自律神経機能に課題を抱える思春期の被験者50名を対象に、糖分を多く含む飲料摂取後の血圧変動を調査。その結果、被験者の約30%において、摂取後15〜30分で収縮期血圧が平均20 mmHg以上低下する傾向が認められました。研究者らは、食後の急激な血糖値変動が起立性調節をさらに不安定化させる要因になり得ると報告しています。

国内のガイドライン・調査

  • 日本小児心身医学会(2019年改訂版)
    OD患者の食生活指導の一環として、朝食欠食や糖質に偏った食事を避けるよう勧めています。特に朝に清涼飲料水などの糖分過多の飲料を摂取すると、倦怠感やめまいの頻度が高まるケースがあると述べられています。
  • 厚生労働省 国民健康・栄養調査(2020年)
    思春期の若年層のうち、1日1回以上清涼飲料水を摂取する割合が約40%以上にのぼり、そのうち約15%は1日2回以上の頻度で摂取しているというデータがあります。ODとの直接的な因果関係を示すデータではありませんが、糖分多量摂取が習慣化している背景を考える上で重要です。

6. おわりに

思春期の起立性調節障害は、自律神経の微妙なバランスが崩れることで朝起きられなくなったり、立ちくらみやめまいが起こる症状です。そこに糖分の過剰摂取が加わると、血糖値の急激な変動によって自律神経の乱れがさらに強まり、ODの症状を悪化させる可能性があります。

  • 適切な糖分摂取: 朝食を抜かず、清涼飲料水や菓子類の過剰摂取を控える。
  • 生活リズムの安定: 十分な睡眠時間と規則正しい食事で自律神経を整える。
  • 専門家への相談: 症状が続く場合は、小児科や心療内科など専門医やスクールカウンセラーに相談する。

こうした対策を心がけることで、思春期に特有の自律神経の不安定さをサポートし、ODの予防・改善につなげることが期待できます。

7. 参考文献

  1. 日本小児心身医学会 (2019) 『小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン(2019年改訂版)』.
  2. Zafar, S. et al. (2018). Postprandial hypotension in adolescents with autonomic dysfunction. Clinical Autonomic Research, 28(3), 211–217. doi: 10.1007/s10286-018-0520-3
  3. World Health Organization (2015). Guideline: Sugars Intake for Adults and Children. Geneva: WHO.
  4. 厚生労働省 (2020) 『国民健康・栄養調査』.

思春期の身体と心は大きく変化するため、生活習慣を見直すことは早期の症状改善に非常に重要です。糖分の過剰摂取を控え、バランスの良い食事や十分な睡眠を心がけることが、ODの症状緩和と健康的な成長の両立に役立つでしょう。