目次
概要
思春期に多くみられる起立性調節障害(OD)は、スマホの夜間使用による睡眠不足や生活リズムの乱れと深い関連があると指摘されています。本記事では、日本および海外の研究データを参考に、ODとスマホ利用時間の関係について具体的に解説します。
1. はじめに
思春期の中高生は、学業や部活動、友人関係など多忙な日々を送る一方、近年はスマートフォン(以下、スマホ)の普及により、夜遅くまでSNSや動画視聴などに没頭する姿が珍しくありません。こうした生活習慣は睡眠不足を引き起こし、朝の起床困難やめまい、倦怠感を生じさせる起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation: OD)の発症リスクを高める可能性があると報告されています。本記事では、研究論文のデータを交えながら、ODとスマホ利用時間の密接な関係を見ていきます。
2. 起立性調節障害(OD)とは
ODは、自律神経の調節障害により体位変換(横になった状態から立ち上がるなど)時に血圧が十分に維持できず、めまい・動悸・倦怠感などが起こる症候群です。思春期の児童・生徒の5〜10%が経験するとされ(日本小児心身医学会, 2019)、特に朝の起床困難が特徴的です。
- 主な症状:
- 朝起きられない
- 立ちくらみ・めまい
- 動悸・倦怠感
- 午前中の強い眠気や疲労感
出典:
3. スマホ利用時間がもたらす影響
3-1. 睡眠不足と生体リズムへの干渉
スマホ画面から放出されるブルーライトは、脳の睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制し、入眠を遅らせる原因となると報告されています(Chang et al., 2015)。また、SNSやゲームなどで夜更かしが常態化すると就寝時間が遅くなり、思春期に必要な十分な睡眠時間(一般的に8〜10時間)を確保できなくなることが多いです。
3-2. 自律神経への負荷
夜間に交感神経が過度に優位な状態が続くと、朝起きたときに血圧や心拍数の調整が乱れやすくなります。特に思春期はホルモンバランスの変動が激しいため、スマホ利用による夜型化が重なると、起立性調節障害のリスクが増大すると考えられます(Okawa & Uchiyama, 2007)。
出典:
- Chang, A. M., Aeschbach, D., Duffy, J. F., & Czeisler, C. A. (2015). Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(4), 1232–1237.
- Okawa, M., & Uchiyama, M. (2007). Circadian Clock and the Management of Sleep Disorders. Sleep and Biological Rhythms, 5(1), 1–7.
4. 具体的な研究データと考察
4-1. 日本の調査事例
- 日本小児心身医学会(2019)のガイドラインでは、ODと診断された中高生の約30%が「平日の就寝時刻が深夜0時以降である」と回答し、その中の約半数が「ベッドに入ってから1時間以上スマホを使っている」ことが報告されています。
- また、ODの症状が重い生徒ほど夜間のスマホ使用時間が長い傾向が認められ、特にSNSや動画視聴に費やす時間が平均1日3時間以上に及ぶケースもあったとされています。
4-2. 海外の研究報告
- American Academy of Pediatrics (2016) は、思春期の子どもが1日に2時間を超えるスクリーンタイムを続けると、睡眠不足や起床困難といったリスクが高まると警鐘を鳴らしています。
- また、Twenge et al. (2018) の研究では、10代後半のスマホ依存度が高い群は、低い群と比べて睡眠不足のリスクが約70%高いとのデータが示されています。このような睡眠不足が続くと血圧や自律神経の調整機能が低下し、ODを発症・悪化させる可能性があると推測されています。
出典:
- American Academy of Pediatrics (2016). Media and Young Minds. Pediatrics, 138(5), e20162591.
- Twenge, J. M., Martin, G. N., & Campbell, W. K. (2018). Decreases in psychological well-being among American adolescents after 2012 and links to screen time during the rise of smartphone technology. Emotion, 19(1), 140–152.
4-3. 考察
これらのデータを総合すると、スマホ利用時間が長いほど睡眠不足や生活リズムの乱れが顕著になり、結果的にODの症状が表れやすくなる傾向がうかがえます。特に思春期は自律神経が不安定な時期であり、ブルーライトの影響や深夜のSNS利用が相乗的に体内時計を狂わせるため、朝の起立時に血圧を維持しにくくなる可能性が高いと考えられます。
5. 症状緩和に向けたポイント
- スマホ利用時間の制限
- 就寝1〜2時間前はスマホを使わない習慣を心がける。
- 必要に応じてアプリの利用制限や、家族でのルール作りを行う。
- 生活リズムの整備
- なるべく決まった時間に就寝・起床し、休日もリズムを大きく崩さない。
- 朝はカーテンを開けて日光を浴び、体内時計をリセット。
- 適度な運動とストレスケア
- 軽いウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かす。
- 学校や家庭でのストレスをためすぎないよう、カウンセリングや相談窓口の活用を検討する。
- 医療機関への相談
- 症状が長期化・重症化している場合は、小児科や心療内科などの専門医への受診を検討。
6. おわりに
思春期の起立性調節障害(OD)はホルモンバランスや自律神経の乱れが背景にありますが、近年の研究ではスマホの夜間使用が睡眠不足と生活リズムの乱れを引き起こし、症状を助長している可能性が指摘されています。
特に夜間の長時間スマホ利用は、ブルーライトと精神的興奮によって入眠を遅らせるだけでなく、朝の起床時の血圧調整を妨げる要因にもなり得ます。日常的にスマホを使う時間やタイミングを見直し、適切な生活習慣とストレスマネジメントを取り入れることで、ODの症状緩和に繋がる可能性があります。症状が続く場合は早めに専門機関に相談し、自分に合った対処法を見つけてください。
参考文献
- 日本小児心身医学会 (2019). 『小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン(2019年改訂版)』.
- Chang, A. M., Aeschbach, D., Duffy, J. F., & Czeisler, C. A. (2015). Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness. PNAS, 112(4), 1232–1237.
- Okawa, M., & Uchiyama, M. (2007). Circadian Clock and the Management of Sleep Disorders. Sleep and Biological Rhythms, 5(1), 1–7.
- American Academy of Pediatrics (2016). Media and Young Minds. Pediatrics, 138(5), e20162591.
- Twenge, J. M., Martin, G. N., & Campbell, W. K. (2018). Decreases in psychological well-being among American adolescents after 2012 and links to screen time during the rise of smartphone technology. Emotion, 19(1), 140–152.
思春期は身体だけでなく心の面でも大きく変化する時期です。スマホ利用時間を含む生活習慣を見直し、自分に合った改善策を取り入れることで、ODの症状を軽減する可能性があります。学校や家庭、医療機関と連携しながら早めに対処していきましょう。