メンタルヘルスの悩み~それ、あなたは悪くない~

メンタルヘルス不調の人が増えています。「起立性調節障害」「うつ病」「睡眠障害」などを抱え、一人で悩む人は少なくありません。様々な国内外の研究を参考に考えていきます。

「逆流性食道炎」って、やっぱりストレスが原因なの?

今回、皆さんと考えたいのは「逆流性食道炎」と「ストレス」の関係についてです。

【概要】

本記事では、生活習慣病のひとつとして知られる'''逆流性食道炎'''が、ストレスとどのように関連しているのかを解説します。海外および日本で行われた研究論文のデータを参考に、ストレスがどのように逆流性食道炎の発症や悪化に影響を与えるか、具体的なメカニズムや数値を交えながら整理し、最後には症状緩和や予防のための実践的な対策をまとめます。


はじめに

食後に胸やけや胃酸の逆流を感じることはありませんか? '''逆流性食道炎(GERD)'''は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流し、食道粘膜に炎症を引き起こす病気です。現代人に増えているとも言われるこの疾患には、食生活やライフスタイルの影響が大きいとされてきましたが、近年では'''ストレスが発症や悪化に密接に関与している'''ことが明らかになりつつあります。仕事のプレッシャーや人間関係の悩みなど、日常的にストレスを抱える機会が多い方は、逆流性食道炎に注意が必要かもしれません。

本記事では、逆流性食道炎の基本的な概要から始め、ストレスが身体に与える影響、さらには海外・日本の研究データを参照しつつ、逆流性食道炎とストレスの関係を紐解いていきます。どうすればストレスを減らし、逆流性食道炎を予防・緩和できるのか、具体的な方法を紹介しながら解説します。


1. 逆流性食道炎とは

逆流性食道炎(Gastroesophageal Reflux Disease: GERD)は、胃酸や胃内容物が食道に逆流して食道粘膜に炎症を引き起こす疾患です。主な症状には以下のようなものがあります。

  • 胸やけ
  • 胸部の痛み・灼熱感
  • 酸っぱいものがこみ上げてくる呑酸
  • 慢性的な咳やのどの痛み

欧米では20〜30%以上、日本でも10〜15%程度の有病率が報告されており、年々増加傾向にあるとされています。逆流性食道炎の背景には、'''肥満や高脂肪食の増加、喫煙、アルコールの多量摂取、ストレスなど'''複数の因子が複合的に作用していると考えられています。


2. ストレスが与える身体的影響

ストレスは精神的な負担だけでなく、身体に対しても多大な影響を及ぼします。具体的には、ストレスホルモンである'''コルチゾール'''や'''アドレナリン'''が過剰に分泌されることで、自律神経系(交感神経、副交感神経)のバランスが崩れ、消化器官を含む全身の機能調整が乱れやすくなります。

また、ストレスが高い状態が続くと、睡眠の質が低下したり、食生活が乱れたりといった二次的な要因も生じます。これらは胃酸の分泌増加、胃の蠕動運動の変化などを引き起こし、逆流性食道炎における諸症状の発症・悪化を促進する可能性があるのです。


3. 海外の研究事例

逆流性食道炎とストレスの関連性は、海外の医学界でも多数の研究が報告されています。以下に代表的なものをいくつか取り上げます。

Dickmanら(2015年)

'''Dickman R, Maradey-Romero C, Zhang Y, et al.
"Lifestyle modifications in the management of gastroesophageal reflux disease: clinical observations and scientific basis."
Curr Gastroenterol Rep. 2015;17(7):20.
https://doi.org/10.1007/s11894-015-0440-z
''' この研究では、逆流性食道炎の患者においてストレスレベルが高い人ほど、'''胸やけや呑酸の症状が約1.6倍増加'''しているというデータが示されています。生活習慣の改善(食事内容の見直し、アルコールの制限など)と併せて、ストレス管理を強化することで症状が緩和される傾向が確認されました。

Leeら(2017年)

'''Lee SW, et al.
"The role of psychological stress in the pathophysiology and treatment of functional gastrointestinal disorders"
J Neurogastroenterol Motil. 2017;23(2):161-169.
https://doi.org/10.5056/jnm16214
''' 機能性胃腸障害(Functional Gastrointestinal Disorders: FGIDs)とストレスの関連をまとめたレビューでは、'''ストレスによる自律神経の乱れ'''やストレスホルモンの分泌増加が、逆流性食道炎の発症リスクを約20〜30%高める可能性があると報告されています。


4. 日本の調査データ

日本においても、逆流性食道炎とストレスとの関連を示す研究は増加してきています。以下では、その一例を紹介します。

日本消化器病学会の報告(2019年)

日本消化器病学会が行った調査では、'''約13.3%の成人が逆流性食道炎と診断された経験を持ち、そのうちおよそ35%が高いストレスを日常的に抱えていた'''と報告されています。特に、仕事や家庭内の悩みが蓄積している人ほど、胸やけや呑酸といった症状の頻度が高い傾向にあるとの結果が示唆されました。
(出典:日本消化器病学会公式サイト
https://www.jsge.or.jp

厚生労働省のストレス調査(2020年)

厚生労働省が毎年実施している「国民健康・栄養調査」によると、成人の約60〜70%が何らかのストレスを感じており、'''ストレスを自覚する人ほど消化器系の不調(胃痛、胸やけ、食欲不振など)を訴える割合が1.5倍以上高い'''というデータも示されています。
(出典:厚生労働省「国民健康・栄養調査」
https://www.mhlw.go.jp


5. ストレスと逆流性食道炎のメカニズム

なぜストレスが逆流性食道炎の発症や悪化につながるのでしょうか。大きく分けて以下のようなメカニズムが考えられています。

  1. 自律神経の乱れ
    ストレス下では交感神経が優位になり、副交感神経の働きが抑制されます。すると胃酸分泌量が増えたり、食道括約筋(下部食道括約筋)の機能が低下して胃酸が逆流しやすくなる、という生理学的変化が生じると考えられています。

  2. ホルモン分泌の増加
    ストレスホルモンである'''コルチゾール'''や'''アドレナリン'''が過剰分泌されると、消化管の運動性や粘膜の保護機能が乱れ、胃酸の食道への逆流を防ぎにくくなる可能性があります。

  3. 睡眠・生活習慣の乱れ
    ストレスが強いと睡眠不足や夜間の過食、アルコール摂取の増加など、'''逆流性食道炎を悪化させる行動パターン'''が増えるリスクがあります。これらは食道への胃酸の逆流を促進する大きな要因です。

  4. 免疫機能の低下
    慢性的なストレスは免疫機能の低下を招き、胃や食道の粘膜がダメージを受けやすい状態となります。その結果、炎症が起こりやすくなり、症状が長引く・悪化するという悪循環に陥る可能性があります。


6. 緩和・予防のための具体的対策

ストレスと逆流性食道炎が密接に関連しているのであれば、ストレスを上手にコントロールすることが症状の緩和・予防につながります。ここでは、具体的な方法をいくつか紹介します。

  1. 規則正しい生活リズム
    起床・就寝時間を一定に保ち、1日3食バランスよく摂取することで、自律神経やホルモン分泌の乱れを防ぎやすくなります。就寝前の2〜3時間は食事を控えると、'''胃酸が食道に逆流しにくくなる'''点も重要です。

  2. ストレスマネジメント
    瞑想や呼吸法、軽い運動などを日常生活に取り入れ、'''ストレスを軽減'''する習慣をつくりましょう。深呼吸をするだけでも副交感神経を刺激し、胃酸分泌の過剰を抑える効果が期待できます。

  3. 食生活の見直し
    脂質や糖分、カフェイン、アルコールの摂取は胃酸分泌を刺激しやすいため、適量を守ることが大切です。さらに、食べ過ぎや早食いは胃に負担をかけ、逆流を引き起こしやすくなります。'''ゆっくりよく噛んで食べる'''ことを意識すると良いでしょう。

  4. こまめな休息・運動
    適度な運動はストレス発散に有効で、また体重コントロールにも役立ちます。肥満は腹圧を高めて逆流を起こしやすいため、'''運動による体重管理'''は重要な対策のひとつです。歩行や軽い筋トレを日常に組み込んでみてください。

  5. 専門医への相談
    胸やけや呑酸などの症状が長期化している場合や、食生活の見直し・ストレス対策をしても改善が見られない場合は、'''専門医(消化器内科など)を受診'''して正確な診断を受けることが大切です。薬物療法プロトンポンプ阻害薬など)を併用することで症状が劇的に改善するケースも少なくありません。


まとめ

逆流性食道炎は、胃酸の逆流によって食道粘膜が傷つく病気ですが、'''ストレスはその発症や悪化を大きく左右する要因のひとつ'''であることが、海外(Dickmanら、Leeら)や日本(日本消化器病学会、厚生労働省調査)の研究から明らかになっています。ストレスを抱えると自律神経が乱れ、胃酸分泌が過剰になったり、食道括約筋の機能が低下したりして、胸やけや呑酸などの症状が出やすくなります。

ただし、ストレスを完全に排除することは難しくても、生活習慣や食習慣、睡眠などを整えることでストレスを軽減することは可能です。'''規則正しいリズム、ストレスマネジメント法の活用、適度な運動と食生活の見直し'''を行うことで、逆流性食道炎の症状緩和・予防につながるでしょう。症状が長引く場合は専門医の診断を受け、必要に応じて薬物療法や生活指導を合わせて行うことで、より効果的にコントロールできます。

ストレスと逆流性食道炎は相互に影響し合う複雑な関係ですが、しっかりと知識を持って対策をすることで、身体と心の健康を守る一歩となるはずです。